マオルーグと手紙

――元気にしていますか?

 旅の間もまめに返事を送ってくれた貴方ですが、先日のお手紙でリンネに定住すると知り驚きました。

 よほどリンネが気に入ったのかしら?
 それとも……

 新しい生活でのお話、たくさん聞かせてね。

 お返事、楽しみにしています。

 そうそう、最近あったことなのだけれど……――――


「…………むう」

 以下数枚に渡る近況報告……と呼ぶにはとりとめのない話題が続く手紙に目を落とし、眉間にシワを寄せる。
 嫌いではない、嫌いではないのだが……どうにも面映い気持ちになるのは許して欲しい。

「マーオたんっ」
「ぎょわっ!?」
「お、新しい鳴き声」

 わ、我の背後をとるとは貴様、いつの間にそんな……いや、我の方が腑抜けていただけか。

 かつては魔王を倒し伝説の勇者と言われた存在でも、今のこいつはユーシア……平和な世界に生まれた小さな姫なのだから。

「まだまだ修行が足りぬな、我も……」
「なにブツブツ言って……あっ!」

 勇者が急に大きな声を出すものだから、思わず肩がぎくりと跳ねた。
 貴様の声は割とキンキンして通るのだから気をつけろと先日言ったばかりだろう!

「なにそれマオたんラブレター? ひゅうー!」
「リアクションがおっさんか!」

 いや、おっさんだった。

「えっ、マオルーグさん恋人とかいるんですか!?」

 そして勇者の声につられて、余計なものまで呼び寄せる。
 前世は勇者の相棒の戦士、今は勇者の護衛であるファイが、好奇心に緑の目を輝かせていた。
 ええい貴様らキラキラとうっとうしい!

 だが妙な勘違いをされたままでは確実に面倒なことになるだろう……仕方ない。

「……恋人などいない。これは実家からの手紙だ」
「実家?」
「遠く故郷を離れているのだ、家族と連絡くらいとるだろう」

 なぁんだ、とあからさまにガッカリした声が重なる。

「でも、マオルーグの親御さんかあ……返事、書くんだよな?」
「当たり前だろう。不必要な心配をさせてはならぬからな」
「お前、そういうとこ律儀だよな」

 まあ、物心つくなり我は魔王だと言い出すような息子をここまで大きく育ててくれたからな。
 今思えばあれは、やってしまったなと我ながら思う。

「何を書くか決めたんですか?」
「ああ、いや、なんてことはない。ただつらつらと近況報告を書き連ねるだけだからな……なるべく当たり障りのないものを拾ってだが」
「えー、何その業務連絡っぽいの。つまんねー」

 貴様は我の両親への手紙に何を求めているのだ。

「まあいいや。せっかくだから手伝ってやるよ!」
「いらん! 帰れ!」
「帰れってお前ここ俺の城なんですけどー!?」

 部屋に帰っておとなしく勉強でもしていろ!
 駄々をこねる勇者とその仲間を追い払うと、我は手紙の束と向き合った。
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