おいでませリンネ観光ツアー

 後日、街中で姿を見かけたホーリスは、こちらに気づくとものすごい剣幕でやって来た。
 スッ、とマオルーグが間に入るように進み出る。

「おい、猫かぶり姫!」
「ユーシアだ」

 いい加減やめてくれねーかな……言いにくいだろ、それ。

「この前はよくもやってくれたな」
「俺は別に何も?」

 マージェス王子に引き合わせたのはスカルグだし、俺たちは場の空気を読んで退散しただけだ。
 そう返せば、ホーリスは面白くなさそうに口を尖らせる。

「……あ、それと猫かぶり姫。お前マージェスには猫かぶりなんだな?」
「そ、そうだけど」
「なんか寂しがってたぞ……『出会ったばかりのホーリスにも素の状態なんですね』なんて言われた」

 そう言われてもなあ……年上で、他国の王子様にオッサンそのものの素で接したら姫としてアウトだろ。
 一応ラグード王子も該当するんだけど、アイツは歳も近いし中身はわんこだし……

「んで、それを言いにわざわざ来たのかよ?」
「ああ、それだけじゃない。あの日聞きそびれたことがあって、それなのに先に帰るから……」

 なんだ、用があるならそう言えばいいのに。

「で、聞きそびれたことって何だ?」
「……ユーシア」
「はいっ!?」

 イ、イケメンの急な名前呼びは心臓に悪いので用法用量を守ってくださいませ!?
 不意討ちにちょっとドキドキした俺を、切れ長の目がふっと見下ろす。

「リンネのどんなところが好きなんだ?」
「リンネの……?」

 それが聞きたかった?
 だから俺に一日案内させたってこと?
 見ればホーリスの瞳は真剣そのもので、いつものふざけた様子がない。

「この国は居心地が良い。その正体は何なのか、この国の姫だっていうお前の口から聞きたい」
「ああ、なるほどね。まったりしてるからなーうちの国」

 さて、居心地の良さの正体ねえ。
 今のがほぼ理由になってるとは思うけど、改めて考えるとなると……

「懐の広さだろう。この国が受け入れているものは多い」

 と、いきなり割り込んできたのはマオルーグ。
 何故かホーリスを睨むけど、お前なんでそんなに対抗心燃やしてんの?

「アンタに聞いては……」
「ああ、まあでもそんな感じだよ。マオルーグだって今でこそ馴染んでるけど他国の旅人だったし」

 そう、他国の人間もそうだけど……前世のことを言えばこの国はもっと幅広いものを受け入れているのだ。
 なにせ勇者と魔王が一緒に暮らしてるんだからな。

 穏やかで、ゆるい空気。そんなリンネが、俺は大好きだ。

 だから……

「ホーリス」
「なんだよ?」
「リンネを気に入ってくれて、ありがとうな」
「!」

 ここを居心地良く思ってくれていることを、心から嬉しく思う。
 それは姫としてというか、たぶん俺個人としての感覚だ。

「……やっぱ、変な姫だ」
「ふん、何を今更」
「なんでだよ!」

 こうやって受け入れられたからにはお前らも仲間だからな。

 カノドのひねくれ王子様、リンネへようこそ!
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