おいでませリンネ観光ツアー

 ちょっとした騒ぎになってしまったので、俺たちは図書館には入らず庭で話すことに。

「まずカノドの王子は四人兄弟なんですよ」
「全員母親が違って全員母親似。だから並んでも兄弟だってわからない……バレないと思ったんだがな」

 笑顔でマージェス王子が、溜息まじりにホーリスが俺たちに説明する。
 ていうかいろいろすげえな、カノド王家……

「私はマージェス王子から少々お話をうかがって、お名前を存じ上げていたので……もしや、と」
「最初にホーリス“様”って言いかけてたのはそういうことか。図書館に案内したのも……」

 ちっ、と舌打ちをするホーリスに、マージェスは珍しくむっとしたような、少しだけ険しい顔をした。

「それよりもホーリス、私のことは兄上と呼んでくださいと言ったでしょう?」
「うるさいな……だから会いたくなかったのに」

 どっちもリンネに滞在してりゃ、いつかは会うことになる……かもしれないけど、行きそうなところを避けていればそうでもないのだろうか。

「カノドの王子がリンネに二人も……」
「ま、優秀な兄上が国を継ぐのは確定だろうからな。僕はそういうのは勘弁だ」
「それで旅をしていた、と?」

 随分と自由な王子サマですこと。
 俺も兄弟いっぱいいたら旅にでも出られたのかなー、なんてうっかり小声で呟いたら護衛ふたりに睨まれてしまった。

「護衛はつけていないのですか?」
「そんな面倒なのがいたら息が詰まるだろう。特にお前みたいなのは御免だね。僕は気楽な旅がしたいんだよ」

 わかるけど王子としてどうなのそれ。

「ホーリスは確かに強いんですけどね……困ったものです」
「心中お察しいたしますわ、マージェス王子」

 しかし改めて考えると、見た目の似てなさもさることながらこの二人、前世だと魔王の配下である闇の魔法使いと神に仕える聖職者だったんだよな。
 共通点どころかいろいろと対照的すぎるだろ、と思うけど……

「マージェスこそ、いつまでリンネにいるつもりなんだよ?」
「少なくともリンネの図書館を制覇しませんと!」
「相変わらず本の虫だな……まあ、マージェスにバレた以上、僕も利用させてもらうが。面白い本があるかもしれないからな」

 こうやって自分のやりたいことを貫き通すあたり、案外似ているのかもしれない?
 あと、好奇心旺盛なところとか。

「そういやスカルグにもいるんだよな、確か弟さんや妹さんが」
「ええ。だからですかね……らしくないお節介をしてしまいました」
「いいんじゃねーの。苦手にしてる割に、ああやって話してると満更でもなさそうだし」

 そうこうしているうちにマージェス王子は弟におすすめの本を紹介し始めた。
 これは長くなりそうだ、と判断した俺たちはこの場をそっと離れることにする。

「あっ、猫かぶり姫!」
「ほほほ、それではご兄弟仲良く、ごゆるりとお過ごしあそばせー」

 我ながらひどい棒読みもあったものだ。

 これにて、リンネ観光ツアーは幕を閉じるのであった。
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