おいでませリンネ観光ツアー

 そして、いよいよリンネ観光ツアー。
 剣の道一筋のスカルグも今日は剣を旗に持ち替えて、案内役を引き受けてくれた。

「我も旅をしていた時にリンネのことはある程度調べている。何かあれば力になろう」
「ありがとうございます、マオルーグ殿」

 そんなことを言うマオルーグが意外に思えたが、よくよく考えれば俺に旅先で知った各地の風習やいろいろなことを教えてくれたのもこいつだった。
 前にそれとなく尋ねてみたら、せっかく人間に生まれ変わったのだから人間界のさまざまなことに触れて知ってみようと思ったらしい。
 人間界、エンジョイしてるよなあ……真面目でもあるけど。

「……あの男、妙に押しが強いだろう?」
「ああ、それも心配か。スカルグは控え目だもんな」

 こっそりと内緒話をする元上司と元好敵手に、それと知る由もないスカルグは首を傾げる。

「それでまずはどこに案内してくれるんだ?」
「そうですね、まずは……聖剣塚まで」

 この辺に聖剣塚なんて場所あったっけ?
 疑問に思いながらスカルグの後について行くと、着いたのは子供たちの憩いの広場……遊具も並ぶ公園だった。
 そういや公園にはほとんど来たことなかったけど、中央の小高く盛り上がった山にある台座、そしてそこに刺さった細長い石……どっかで見たような?

「こちらは主である勇者を失い、石化した聖剣が刺さった塚です」
「そんなのあったの!?」

 そういや俺、魔王倒してから聖剣を元の台座に戻したわ。
 スカルグの話ではその後リンネ……カナイ村の人たちが台座ごと村に持ち帰ったらしい。

「そうして勇者の故郷という看板を掲げて発展したのがリンネか……ちゃっかりしていることだな」
「いや二重の意味でたくましすぎない?」

 ちょっと驚きもしたが、こういうのは少年心をくすぐられるスポットかもしれない……当事者からするとなんともいえない気持ちになるけど。

「勇者にしか抜くことのできない聖剣……それじゃあ僕がこの剣を抜いたら勇者になるのか?」
「手を触れてはいけませんよ。結界で守られているので、触ると結構痛いです」

 フリーダムな子供たちが遊ぶ公園にそんなものあったら危なくない?
 勇者の聖剣とかわんぱく盛りの坊やたちが放っておくワケなくない?

「痛いですってアンタ、それ触った人間がいるのか?」
「ええ、子供の頃の私ですけど」

 フリーダムがここにいた。
 そういう規則とか破るタイプには見えないけどまさかそれはもしかして……

「そこに剣があったら手に取りたいでしょう?」
「悪い、ちょっとわからないな……」

 すげえ、あのホーリスが若干引いてる。
 そこに山があるから的なノリで聖剣を手に取ってるけど、それ一応お前の前世の死因だからな……?

「どうにも惹かれてしまうんですよ。特にあの聖剣には……なんだか、誇りとか気高さとか、そういうものを感じるというか、自分らしくいられるような……よくここに来て、己の迷いを晴らしたものです」

 やめてくれそれ以上は俺に効く。
 ふと隣を見るとマオルーグも目頭を押さえて呻いていた。

「そ、それじゃあ次! 次いってみよー!」
「えっ? は、はい、わかりました」

 放っておけばいくらでも聖剣語りをしてしまいそうなスカルグの手を引いて、俺は強引に次の場所へと促した。
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