おいでませリンネ観光ツアー

「リンネの観光案内って言ってもなあ……」

 一旦話を持ち帰ることにした俺たちは、中庭に置かれたテーブルについた。

「まさか勇者、たかが旅人に姫が直々に案内してやるつもりか?」
「んー、まあそれはいいんだけどさ」

 言われてみりゃ、姫らしくないのかもしれない。
 でも俺は生まれ育ったこのリンネが結構好きで、外の人間に興味を持ってもらえたこと自体は嬉しいのだ……これといった特徴のない、小さな国だし。

「観光とか言われても、なんかあるか……?」
「あ、ですが姫様……この国はもとは勇者が生まれた村だったんですよ」

 えっ、初耳。
 俺があからさまにそんな顔をすると、マオルーグが驚きに目を見開くといった感じに俺を見つめてきた。

「き、気づいていなかったのか?」
「いやだってほら原型ないし……周りの国もだいぶ変わっててわかんなかったわ」

 頭に地図を浮かべてみれば、確かに地形的にその辺だったような……

「発展したんだな、カナイ村……」
「恐らくは勇者の功績だろうがな」
「マジか、知らなかったわ……まあどうせかなり経ってからだろうけど」

 ていうか、スカルグはともかくマオルーグが知ってるとは。

「知っているものだと思っていたぞ」

 生まれた地に転生したのだと思えば妙に納得がいく、と小声で付け足して。

「うーん、村の痕跡がないからな……ていうか、勇者の生家とか残ってないだろ?」
「え、ええ、まあ……」

 言葉を濁して控えめに頷くスカルグ。
 言わなくてもわかるぞ……特に勇者らしい物も残ってないボロい一軒家だもんな。

「ですが良い機会ですね。姫様もホーリス殿と一緒にリンネのことをもっと知ってみては?」
「そういうことなら護衛は我がつこう。仮にも王族が得体の知れない男と行動するならな」

 な、なんか今日のマオ、圧が強くない?
 と思っていたら今度はスカルグが考え込みながら口を開く。

「得体が知れなくはないのですが……」
「なに?」
「いえ、まだ確証がありませんね。私も護衛兼案内人として、頑張らねば……姫様にも勉強していただく良い機会ですし」

 こっちは妙に意味深?
 気になることを残してスカルグは「それでは」と一礼してそそくさと去っていく。

「……なんか知ってるのか、アイツ」
「さあな。知り合い……とは思えぬが」

 そしてスカルグがいない今、気になるといえば、もうひとつ。

「マオ……お前さっきホーリスに何か言おうとしたろ。話そらしてたけど」
「む」
「スカルグのことバカにされて、カチンと来たとか?」

 俺もちょっとムッときたもん、と言えばマオルーグの目が大きく見開かれる。

 スカルナイトの生まれ変わりだからかどうかは知らないが、あいつは確かに白くて細くて、おまけに今は気性も穏やかで、その見た目から侮られやすい。
 戦士らしい屈強な肉体がなくとも、風に揺れる柳のようにしなやかな体が繰り出す鋭い剣の斬撃は、前世で好敵手と認めた武人そのものなんだが。

「自慢の部下、だもんな?」
「……フン、当たり前だ。スカルナイトに限った話ではないがな!」

 知ってる、みんな強かったもん。
 そう返せば元魔王様は一瞬だけ口元を綻ばせかけて「何を今更」とそっぽを向いた。
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