おいでませリンネ観光ツアー

 ぽかぽか陽気にそよぐ風。
 今日もリンネの国は平和そのもので、ゆったり穏やかな時間が流れていた。

……が、

「よう、猫かぶり姫」
「げっ」

 錆鼠のサラサラロングのポニーテールに切れ長で涼やかな濃藍の目、そんな整った容姿の青年。

 護衛のマオルーグと非番のスカルグを連れて町中を歩いていた俺、ユーシアは最近この国に来たという旅人のホーリスに遭遇し、一応よそ行き用に被っていたお姫様の仮面を早々に引っペがされる羽目になった。

「姫様、この方は?」
「ああ、スカルグは初めて会うんだな。ホーリスっていう旅の……なんか変な奴」

 我ながらあんまりな説明に、案の定スカルグもきょとんとしている。
 いやだって、なんかコイツ変なんだもん!

「おいおい、変な奴はないだろ。っていうかアンタに言われたくないな」

 すぐさま言い返すホーリスに、俺は言葉を詰まらせる。
 事実、中身がおっさんな姫というのも、俺の前世を知らない人間から見ても相当な変わり者に見えるだろう。
 しとやかさ、たおやかさ……そんなものとは無縁なガサツさで、美少女に生まれたお陰で唯一そなえているのが外見からくる愛らしさだ。

「……ホーリス、様」
「ん?」

 睨み合う俺たちをじっと見つめ、考え込むように俯いていたスカルグが、ふいに口を開く。

「いえ。ホーリス殿はどちらの国のご出身で?」
「どこでもいいだろ、そんなの……えーと、スカルグとかいったな」

 何故かムッとした様子のホーリスは、そう言うと一歩踏み込み、上から下までじろじろと不躾な視線をスカルグに送る。

「アンタも護衛か? やけに白くてひょろっちいが」
「あ、はは……生来、肉がつきにくい体質でして」

 騎士団随一の実力者は特に否定もせず、苦笑いを浮かべた。
 それに対してただでさえ鋭い目つきをさらに細くしたのはマオルーグ。
 あれ、これは怒ってる……?

「……それで、本題は? 何か用があって来たのだろう?」
「ああ、そうだったな」

 地を這うような迫力の低音も意に介さず、ホーリスは俺の方をチラリと見た。
 この図太さ、前世で一緒に旅したあの聖職者を思い出すな……なんて呑気なことを考えたのも束の間。

「リンネのことを知りたい。猫かぶり姫、僕を案内してくれるか?」
「「は?」」

 俺とマオルーグの声が見事にハモった。

 つまり、俺に観光案内しろと?
 マオルーグの眉間のシワがもう一段階深くなったことに、めんどくさいから触れないことにした。
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