ぶらり冒険、夢紀行

 なんだかんだ勢いで押し切って、それから魔王のいる部屋までは拍子抜けするくらい一直線だった。
 さて、どんな魔王様が待ち構えているのかね?

「お邪魔しますよっと」

 ギギ、と重苦しい音を立てて扉が開き、奥にある玉座とそこに座る魔王が見えた。
 うーん、やっぱり見た目はいつものマオルーグ……衣装はいかにもな黒マントだけど。

「来たか、人間」
「魔王……か」

 当たり前のように待ち構えているところを見ると、コイツも中身は前世の『魔王様』か?

「ここに来るまでの様子は見させてもらった。我が配下を誰一人殺めることなく退けるとは思わなかったぞ」
「まあ、そうなるよな。魔王様ならそういうリアクションか」

 マオルーグだったら何て言うだろう、とふと考える。
 勇者と魔王の戦いを、その後に生まれた平和な世界を通ってきたアイツなら納得してくれるんじゃねーかな、なんて。

「クク……面白いヤツだ。我と話をしに来たのだったな?」
「おう。大事な大事な話だ!」

 俺は思いっきり息を吸い込むと、尊大魔王ムーブ全開の魔王様に向き直り、キッと紅の眼に己の視線をぶつけた。

 俺がこの夢の世界で、ずっと、ずっと言いたかったこと。

「魔王マオルーグって語呂悪くね!?」
「……は?」
「いやこれずっと思ってたんだけど! 魔王にマオが重なるのめっちゃもにょもにょする!」

 こんなこと言われるとは思っていなかっただろう魔王は目を見開き、口を魚のようにぱくぱくさせて固まっている。

「な、い、いきなり何を貴様っ」
「語感とか響きって結構大事だろ。それに略したらマオマオだぞ? 威厳も何もないだろマオマオたん!」
「やっやかましい! 誰がマオマオたんだッ!」

 こうやって言い合っていると、いつものマオルーグとのやりとりを思い出す。
 あー、そう、これこれ……今は妙に落ち着くわあ。

「何が可笑しい!?」
「はは、やっぱダメだわ。もうお前とは戦えねーよ、俺」

 同じ結末をわざわざもう一回なぞる理由もないしな。
 そう言って、俺は魔王に向かって右手を差し出した。

「ていうか、似合わないぜ、マオ。やめちまえよ、魔王なんてさ」
「ぬっ……」
「勇者と魔王の時代は終わったんだよ。だからさ……」

 一緒に生きよう。

 勇者から魔王へ、本来ならば有り得ない誘い。

 俺の手をじっと見つめる魔王が、それを取ったのかどうか……

(あ、あれ?)

 しかし、そこは夢。
 もうひとつの結末を見ることはなく、暗転により、唐突に終わりを告げるのだった。
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