ぶらり冒険、夢紀行

「はああ……なんか違う意味で消耗した……」

 ダークマージの部屋を離れた俺たちは、その気配が完全に感じられなくなったことを確認すると、ほっとため息をついた。

「……このフィギュア、どうしよう」
「捨てるのもなんか怖いよな……」

 それこそ呪われそうだ、などと思っていると、ふいにこちらを見つめるファイの視線に気づく。

「なんだ?」
「いや……ずいぶん平和的にやり過ごしたな、と。オレの知ってるお前は……」

 ファイが言う『俺』は、前世の『勇者様』のことだろう。
 見た目こそそうじゃなくなっている夢の中だが、こいつや今まで遭遇してきた奴らの意識や感覚は前世のものに近い。

「あー……そういうの、もういいやってなって、さ」
「もう、いい……?」

 と、おしゃべりはここで終了。

「侵入者がいると聞いて来たが……お前たちか」
「……ま、来るよな」

 ちゃんと前世で戦った順番通りだ。
 スラリとした細身の、色白の……前世では更に細く白い骸骨騎士だった男が、今はスカルグの姿で静かに現れる。

 既に剣を抜いて、隙も見せない臨戦態勢なのはさすが生粋の武人といったところか。

「スカルナイト……お前には『俺』が何に見えてる?」
「なに?」
「くたびれた冴えないおっさんか? 小さくて可憐な美少女か?」
「何を言って……真面目に戦う気があるのか!?」
「ない!」

 きっぱり言い放つと、スカルナイトもファイも目を丸くした。

「なっ……」
「今の俺はお前から見て隙だらけのはずだ。んで、そういう……明らかに戦意のない相手に、お前は剣を向けられないよな?」
「!」

 多くの魔物は人間相手に容赦なくその牙を剥いて襲いかかった。
 けれどもコイツは強者と戦う喜びを求める戦士であり続けた結果、弱い者や逃げる者には手を出していない……というか、己の誇りや主義が邪魔をして、手が出せなくなっていたんだと思う。

 実力がありながら魔王の配下の中でも浮いていたし、手段を選ばないダークマージと特に反りがあわないのは、たぶんその辺なんだろうなと前にマオルーグが言っていた。

「だ、だが、魔王様のもとへ行かせる訳には……」
「大丈夫。ちょっと話をしてくるだけだからさ」

 前世の俺は剣を向けられればそれに応じたため、生き生きと戦うスカルナイトの姿しか知らなかった。
 夢の中とはいえ、こんな困った顔を見るのはなんだか可笑しな……いや、スカルグは割とよくこういう顔をするか。

「ああ、そうだ。ファイ、お前はここに残れ」
「へ?」
「ここから先は一人で行く。あいつと一対一で話したいことがあるんだ」

 俺がこれから魔王と会って話すことは、たぶんファイにはわからないだろうし……何より、前世で魔王に殺された奴をもう一度魔王の前に連れて行くのはちょっと、な。

「……二度目くらい、平和的にいきたいんだよ」

 もう、誰も死なせたくない。

 恐らく勇者と呼ばれている以上、この夢の中でも充分戦えるんだろうけどな。

「な、なんだったのだ……」
「オレが聞きたい。どうしちまったんだ、あいつ……?」

 困惑するふたりを置いて、俺は先へ進んだ。
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