その他SS

 今日の舞台は小劇場。
 燕尾をひらりと翻し、登場したのはひとりの少女。
 彼女がステッキを踊らせると、しゅわ、と大小さまざまのシャボンが浮かび上がる。

「さあさ、今宵は何を語りましょう?」

 よく見れば泡の中にはぼんやりと、ここではない景色が映り込んでいた。
 砂漠の旅人、孤独な王、夜を駆ける怪盗、聖剣を抜く勇者……数多浮かぶ泡の中に、ひとつとして同じ物語はない。

「じゃあ、これ!」

 観客の子供が強く興味を引かれたそれを指し示せば、魔法使いの少女は柔らかく微笑む。
 その泡が映し出しているのは、窓辺で涙するお姫様。
 彼女がどうして泣いているのか知りたいと、笑った顔を見てみたいと子供は言う。

「かしこまりました。それでは皆様、目を閉じて……」

 ステッキで泡をぽんとつつけば、それは弾けて溶けていく。
 その瞬間、泡に閉じ込められていた景色が劇場内に広がった。

「夜ごと聴こえるすすり泣き。彼女の涙の理由とは……今宵はとある国のお姫様、その可憐な美しさの裏に隠された、知られざる恋のお話をいたしましょう」

 しゅわしゅわと心地の良い音が辺りに満ち、そして魔法使いの語る物語が幕を開けた。
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