ぶらり冒険、夢紀行

 遠い遠い昔、平和だった世界に突然魔物を統べる魔王が現れ、人間界を脅かしていた。
 そこにこちらも突然、聖剣を抜いた勇者が現れて魔王と戦い、そして倒した。
 勇者は人々の前から姿を消したが、その伝説はいつまでもいつまでも語り継がれ……

 そんな、むかしむかしのものがたり。

……だったはずなんだが。



「ユ……シ」

 呼んでる……

「……き……さい」

 あれ、なんかこの導入前にもあったような……デジャブ?

「勇者様!」

 そうそうここで勇者様って、いや呼ばれてませんでしたけど!?
 確かに俺は魔王を倒して伝説の勇者なんて言われたけどそれは前世の話で、生まれ変わった今は小国リンネの可憐な十七歳の姫、ユーシアだ。

 まあでも『勇者』と『ユーシア』の発音が似ているし、ワンチャン言い間違いもしくは聞き間違いの可能性も……

「ゆ・う・しゃ・さ・ま!」

 ええい人がせっかく可能性を提示してやってるのにはっきりくっきり区切って言われたらそれもなくなるだろ!

「……おい、ホントは起きてんだろ『勇者様』!」
「へ?」

 知ってるはずの声から、聞いたことのない口調。
 いや、聞いたことないのとはちょっと違う……何故ならば、

(ファイの声で“アイツ”の口調……?)

 俺には旅の仲間がいた。
 魔王との最終決戦で奴に殺されるまでの長い道のり、苦楽を共にした相棒の戦士が。
 そして俺がユーシアに転生したように、アイツはその護衛の青年、ファイに生まれ変わった。

 俺と違うのは、前世の記憶がないことだけど。

「……お前、ファイ?」
「ああ。なんだよ、鳩が豆鉄砲くらったみたいな顔して?」

 ファイだけど、ファイじゃない……?

「あーもう訳わかんなくなってきた! こりゃどういう状況だ!?」
「おいおい、しっかりしろよ。まさか使命まで忘れちゃいないだろうな」
「使命?」

 嘘だろ、と言わんばかりにファイが思いっきり呆れ顔をした。

 勇者と呼ばれて、使命って、まさか……

「人間界に侵略を始めた魔王マオルーグを倒すんだろ」
「魔王マオルーグぅ!?」

 あっ、これは夢ですね!

 リンネの城のユーシアの寝室で、美少女の俺は勇者だの言われて、魔王はマオルーグ。
 前世と今世がちぐはぐに融合したようなこの状況を、即座に夢だと判断したのだった。
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