ふしぎなくすり騒動記
「なんということだ……魔法薬の効果で子供になってしまっていたとは……」
「まあでもスカルグを庇ってのことだったんだろ? 仕方ないって」
むしろ元部下を守るなんて、部下想いの魔王様だこと……なんて、頭を抱えて落ち込むマオルーグはそれどころじゃないようだ。
あの後スカルグがお礼言ってたけど、しばらく上の空で右から左だった。
スカルグ、どんまい……後日改めて礼をしたらいいさ。
「中身まで子供化して、一体どんな醜態や失態を晒したかと思うと……ぐぬおおお」
「どんまい。ファイが作ってくれた菓子でも食え」
「ぬう、その菓子も幼い我が何かやらかした結果だろう!」
あれはファイもおとなげなかったけど、まあ先にあの温厚なファイを怒らせたのはマオルーグの方だな。
ちなみにお菓子を作ってきたあいつはマオルーグが元の姿に戻ったと知るとホッとしたような残念なような複雑そうな顔をしていた。
子供化していた時の記憶がなかったとしても、あの表情で何かあっただろうことは容易に想像つくだろうなあ……
「勇者、我は……」
「まあ、なんだ。悪い夢だとでも思えばいいさ」
「いや周囲の人間には記憶に残る現実だったのだろうが!?」
マージェス王子に押しつけられた子供サイズの黒マントをしっかと握り締めて反論したマオルーグは、熱くなってしまった自分に気づくと咳払いをして己を宥める。
「……貴様から見て、どんな子供だった」
「別に。普通だよ。親御さん想いで、義理堅くて、ちょっといろいろ背負い過ぎ……かな」
ああ、それとな、と続けると紅の目が瞬いた。
「似てる、って思った」
「似ている?」
「あー、まあ、察しろ」
勇者と魔王、背負い過ぎなのはお互い様だったなって。
これ以上は気まずいことになりそうだと思った俺は、やや強引に路線変更を試みる。
「なんだ、アレだ! マオたんにもちゃんと可愛ーい子供時代があって俺は安心したぞ!」
「んなっ!? それはどういう意味だ貴様ァ!」
誤魔化すためにかやたら滑りが良くなった舌は勢いのままに言葉を紡ぎだす。
「大人の時みたいな落ち着きがなかったり、ムキになって飛び出したり、それにヨメだとか言って今のマオたんかは想像つかないような大胆で積極て、き……」
あ、これはこれでまずい流れかも……と慌てて口を噤めば、マオルーグが訝しげに片眉を上げた。
「……ヨメ?」
「なんでもない!」
やべえやべえ、中身ちびっこで記憶ないし俺はおっさん勇者の面影もない美少女だけどそれでも“魔王”が“勇者”にヨメにしてやるとか言ったことを知ったらいろんな意味でダメージでかいよな!
「貴様、顔が赤いぞ?」
「なんでもないってば! そ、そうだ、勉強の続きしなきゃな!」
「…………」
このリアクション、たぶん覚えてないよな!?
あー、良かった!
俺は苦し紛れに本を開き、頭に入ってくる訳がない文字をわざとらしく読み上げ始めた。
「全部しっかり覚えているとか、言える訳がないだろう……!」
「ん? 何か言ったか?」
「なんでもない!」
小声の呟きがうっすら聴こえたが、俺にはよく聴こえなかった。
とにもかくにも、お騒がせな事件はこうして幕を閉じる。
その後しばらくマオルーグに対する周囲のまなざしが、ほんのり優しくあったかくなったとか。
「まあでもスカルグを庇ってのことだったんだろ? 仕方ないって」
むしろ元部下を守るなんて、部下想いの魔王様だこと……なんて、頭を抱えて落ち込むマオルーグはそれどころじゃないようだ。
あの後スカルグがお礼言ってたけど、しばらく上の空で右から左だった。
スカルグ、どんまい……後日改めて礼をしたらいいさ。
「中身まで子供化して、一体どんな醜態や失態を晒したかと思うと……ぐぬおおお」
「どんまい。ファイが作ってくれた菓子でも食え」
「ぬう、その菓子も幼い我が何かやらかした結果だろう!」
あれはファイもおとなげなかったけど、まあ先にあの温厚なファイを怒らせたのはマオルーグの方だな。
ちなみにお菓子を作ってきたあいつはマオルーグが元の姿に戻ったと知るとホッとしたような残念なような複雑そうな顔をしていた。
子供化していた時の記憶がなかったとしても、あの表情で何かあっただろうことは容易に想像つくだろうなあ……
「勇者、我は……」
「まあ、なんだ。悪い夢だとでも思えばいいさ」
「いや周囲の人間には記憶に残る現実だったのだろうが!?」
マージェス王子に押しつけられた子供サイズの黒マントをしっかと握り締めて反論したマオルーグは、熱くなってしまった自分に気づくと咳払いをして己を宥める。
「……貴様から見て、どんな子供だった」
「別に。普通だよ。親御さん想いで、義理堅くて、ちょっといろいろ背負い過ぎ……かな」
ああ、それとな、と続けると紅の目が瞬いた。
「似てる、って思った」
「似ている?」
「あー、まあ、察しろ」
勇者と魔王、背負い過ぎなのはお互い様だったなって。
これ以上は気まずいことになりそうだと思った俺は、やや強引に路線変更を試みる。
「なんだ、アレだ! マオたんにもちゃんと可愛ーい子供時代があって俺は安心したぞ!」
「んなっ!? それはどういう意味だ貴様ァ!」
誤魔化すためにかやたら滑りが良くなった舌は勢いのままに言葉を紡ぎだす。
「大人の時みたいな落ち着きがなかったり、ムキになって飛び出したり、それにヨメだとか言って今のマオたんかは想像つかないような大胆で積極て、き……」
あ、これはこれでまずい流れかも……と慌てて口を噤めば、マオルーグが訝しげに片眉を上げた。
「……ヨメ?」
「なんでもない!」
やべえやべえ、中身ちびっこで記憶ないし俺はおっさん勇者の面影もない美少女だけどそれでも“魔王”が“勇者”にヨメにしてやるとか言ったことを知ったらいろんな意味でダメージでかいよな!
「貴様、顔が赤いぞ?」
「なんでもないってば! そ、そうだ、勉強の続きしなきゃな!」
「…………」
このリアクション、たぶん覚えてないよな!?
あー、良かった!
俺は苦し紛れに本を開き、頭に入ってくる訳がない文字をわざとらしく読み上げ始めた。
「全部しっかり覚えているとか、言える訳がないだろう……!」
「ん? 何か言ったか?」
「なんでもない!」
小声の呟きがうっすら聴こえたが、俺にはよく聴こえなかった。
とにもかくにも、お騒がせな事件はこうして幕を閉じる。
その後しばらくマオルーグに対する周囲のまなざしが、ほんのり優しくあったかくなったとか。