ふしぎなくすり騒動記

 今日も平和なリンネの国にはまったりとした時間が流れる。
 昼間のぽかぽか陽気に勉強中の俺、ユーシアにも思わず睡魔さんのお誘いが……

「ひ、姫様ー!」

 おい、まったりだっつってんじゃねえか!

 穏やか空気をブチ壊してドタバタと駆け込んできたのは、白藍の髪に肌も真っ白な痩身……普段それこそ穏やかで物静かなスカルグだった。

「なんだよ今寝るとこ……ん?」

 よく見ればスカルグの傍にはべったりとくっつく、まだ学童にもならないくらいの小さな子供が。

「スカルグ、その子は?」

 スカルグに子供がいたなんて話は聞いたことはないが、何故だかその子には見覚えがあるような、ないような……?

……いや待て、葡萄色の髪に児童にしては鋭すぎる紅の目……どっかで見たぞこいつ。

「なーんかマオルーグに似てるような……なんてな?」

 年齢差的に有り得なくもないし、もしかして隠し子とかだったりなんかしちゃったりして?

「……いえ、似ていると言うよりもこの方は」
「マオルーグさん本人ですよ、ユーシア姫」

 スカルグの後ろからひょっこりと顔を出した穏やか美人、マージェス王子。

「い、いろいろおかしくありませんこと……?」
「うっかり魔法薬の実験に巻き込んでしまいまして、こんな可愛らしい姿に」

 くそう、てへぺろをしても許される顔の造形しおって!
 犯人はあっさりと自白をすると「一日程度で元に戻るはずですから」と言い残し、風のように去っていった。

「正確には私に試そうとしたみたいなのですが、危険を察知したマオルーグ殿が咄嗟に私を庇って……」

 縮んでしまったマオルーグに申し訳なさそうな目を向けながら、補足の説明を入れるスカルグ。
 うーむ、前世で敵視していたとは聞いてたけどダークマージもといマージェス王子はスカルグのこと妙に構うよなあ……

「いろいろ言いたいことはあるが、災難だったな……」
「うう……」

 んで、このちびっこをどうするかだ。
 ちびルーグは話の流れがわからず、俺達の顔を交互に見上げている。
 とりあえずどのくらいお子様化してるのか調べてみるか、と俺はちびルーグの目線にあわせて屈む。

「えーと、マ……僕、おなまえ言えるかな?」
「ふん、とーぜんだぞ!」

 お、どうやら記憶も意識も当時のものっぽい?

「我が名はマオルーグ・コンセット。我は偉大なる魔王ぞ!」
「あっ……」

 あいたたたたたたマオたーーーーん!

「自分を魔王の生まれ変わりと信じてしまっているようで、何を聞いてもこのように……」
「信じてるも何も……!」

 本人ですから、とは言えず俺は頭を抱えるのだった。
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