転生勇姫・SS

「勇者、今日が何の日か知っているか?」
「あ? いや、なにも」
「遙か東の国では“願い逢瀬”といって、ちょっとした昔話というか……伝説があるそうだ」

 そう言うとマオルーグは、その伝説を語り始めた。
 離れ離れにされた恋人同士……まあ、イチャつき過ぎて仕事を疎かにしちまったせいらしいんだが、今度はふたりがあまりにも悲しむから年に一度だけなら会っていいよーってされた日が願い逢瀬……つまり、今日らしい。

 さすが旅の傭兵、いろいろ見て来てるんだなあ。

「聞いてるとどっちも極端だなー」
「まあそれはさて置いて、現代では星に願い事をする日らしい」

 久々に会えてハッピーだからみんなの願いも叶えちゃおう、ってか?

 うーむ、よくわからん。

「勇者、貴様なら何を願う?」
「へ、俺?」

 急に問われて、俺はしばらく考えこんだ。
 ねがいごと、ねがいごと……

「ちなみにマオたんは?」
「……先に貴様が答えろ」
「なんだよ、けちー」

 そう返すとマオルーグはものすごい眼力でぎろりと俺を睨む。
 そ、そんなところで魔王パワーを出すなよう!

「えーとえーと……そうだな……」

 今の俺の願い、それは。

「やっぱこのまま平和が……この穏やかで賑やかな日々がずっと続くこと、かなあ?」

 月並みかもしれないけど、これに尽きる。
 お姫様に生まれ変わったことはびっくりしてるし戸惑うことも多いけど、なんだかんだ幸せだもんな、今。

「で、マオは?」
「ぬっ……!」

 あれ、急に目ぇ見開いて赤くなって、どうした?

「……教えぬ」
「は? なんでだよ?」
「言わんったら言わん!」
「ずりぃ! ひとには言わせといて!」

 俺の文句も聞かず、逃げるようにマオルーグが背を向ける。
 あれ、これってもしかして?

「……まさかだけど、同じ、なのか?」
「…………」

 沈黙は肯定……というより、後ろからでもわかるくらい更に赤くなった耳が答えかな。

 そっかそっか、マオたんも今の生活気に入ってんだな。

「よし、いいことを教えてもらったからみんなでやろうぜ!」
「な、何をだ」
「何って、願い逢瀬だろ。遠い国の話だけどさ、なんか素敵じゃん? おっさんロマンチックな話好きだからさ。詳しく教えてくれよ、マオ」
「ぬう……」

 そんな訳で、リンネの国に新しい風習が増えましたとさ。
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