“勇者”が生まれた日

 聖剣祭の決まり文句はこうだ……『良い子にしていれば勇者様がプレゼントをくれますよ』と。
 もともと訝しげに思ってはいたが、記憶がばっちり戻った今、それはただただ意味がわからない言葉になった。

 なんで勇者がめちゃめちゃ気前のいい奴みたいになってんだよ、道中どんだけ質素な生活送ってたと思うんだよ!?

 生まれ変わるまでの長い長い時間に、いろんなことが変質していったなぁ……と遠い目をする。

「やあ、メリー聖剣祭!」
「お、おう、ラグード王子……」

 中庭でたそがれていたらラグード王子がいつもの爽やかキラキラオーラを放ちながらやって来た。
 けれどもなんだかいつもと格好が……んん?

 イケメンが、なんかツノの生えた獣の着ぐるみ着てる……
 茶色のほぼ全身タイツに近い格好に、テカテカと光る赤くて丸い付け鼻がなんともシュールだ。

「なんだその格好……」
「聖剣祭の聖獣、トナカーイだよ。知らないのかい?」

 は、初耳ですけど?

「リオナットの聖剣祭はみんなそういう格好をするのか……?」
「プレゼントの配り手はね。勇者の使いとして、子供たちに夢を配るのさ」
「配る、って……街中で?」
「そうそう。中身は聖剣ビスケットの詰め合わせで、それぞれの家庭でプレゼントが用意してあるのはリンネと同じだよ」

 つまり街ではビスケットが配られて家でもプレゼント貰えるのか。
 そりゃ子供たちにはうきうきなイベントだなあ。

「それでこれから街にビスケット配りに行くのか?」
「それなんだけどね、聖獣単体ではダメなんだよ」
「なんだそりゃ、相棒がいるってこと?」

 そう、と頷くラグードの付け鼻が陽の光を受けてきらめいた。
 真剣な顔をしたイケメンにデカくて丸い真っ赤な鼻がついてるだけであれなのに、光るなんてずるいぞ……とか思ったのはナイショだ。

「聖獣のパートナーとして『赤服の御使い』が必要なんだ。この服を着て一緒にビスケットを配ってくれる人がね」

 ラグードが取り出したのは白いもこもこがついた暖かそうな赤い服。
 うーん、普段なら面白そうだと思うけど、聖剣祭にはあんまり関わりたくないしなあ……

 と、

「ユーシア様、こんな所に……あ」
「「あ」」

 タイミング良く現れたファイは聖獣コスチュームのラグード王子を見るなり固まった。

「ラ、ラグード王子、その格好は一体……」

 目を見開いて震え、口を魚のようにぱくぱくさせるファイ。
 いや、うん、びっくりするよなこれ。

「ファイ! ちょうどいいところに!」
「うわあ!? な、なんですかっ?」

 どうやら聖獣の相方は見つかりそうでよかったよかった。

 ラグード王子に引き摺られていくファイに「がんばれよー」と手を振った。
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