ラスボスはつらいよ

「ジマリッハの姫である私を部下に攫わせた憎き魔王がまさか人間界のスイーツ食べ歩きに憧れるラブリーなおじさまだったなんて……!」
「簡単なあらすじと紹介をありがとう、セーラ姫。まあ攫わせたっていうのは違うんだけど」
「確かにあの側近には攫われる際『何がなんでも魔王様が自ら動かなければいけない状況にするために、利用させて貰いますよ』と言われましたが」
「溢れ出る黒幕感」
「まあそれはそれとして……貴方、本当に人間の街にスイーツを食べに繰り出すおつもりですか?」
「え? うん」
「返事が軽いですね……」
「ダメ?」
「人差し指を口元に置きつつ小首を傾げての上目遣いは何かに目覚めそうなのでやめてください」
「目覚める?」
「え、ええと……なかなか魔王らしい、厳つい格好をしてらっしゃいますが、その……」
「あっ、そこは大丈夫だぞ。ワシは人間に化けられるからな」
「まあ、そうなのですか?」
「やってみせようか」
「えっ?」
「ほい」
「ま、魔王が……スラリとした長身のダンディなおじさまに……!」
「はは、まあ元が厳ついからそれなりに威厳ある姿にはなるよね」
「イケオジさまのはにかんだ微笑み……!」
「ど、どうしたんだセーラ姫! 急に胸を押さえてうずくまって!?」
「い、いえ……少々動悸がしまして」
「大丈夫か? ここは安全だから少し休んでから帰るか?」
「魔王の玉座で安全と言われましても」
「そりゃあ側近とか他の魔物が怖いだろうけど、ワシが手出しさせないから安全だろうと」
「はあ……いえ何より魔王である貴方が」
「迷惑かけたお詫びもあるしな。セーラ姫はワシが守る」
「うっ、ぐっ……!」
「ああっ再び倒れた!?」
「もう名前を呼ばないでください心臓に悪い!」
「ひえっ、なんかすまん!」
「渋さとラブリーさの共存……魔王、恐ろしいひと……!」
「えーと、その魔王っていうのなんだが、ワシにも一応名前があってだな」
「はあ」
「人間界では一応、そっちの名前で呼んでほしいかなって」
「魔王は魔王ではなかったんですね」
「んな訳なかろう!」
「確かに『魔王』では外で堂々と呼べませんものね。承知いたしました」
「ありがとう!」
「う、嬉しそうですね」
「だって……誰もワシのこと名前で呼んでくれなかったから、寂しかった……」
「ぐううっっ!」
「セーラ姫ーーーーーー!?」
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