お忍び祭

 城下町にそそくさと逃げてきた俺は、やけに人が密集している箇所を見つける。
 漏れ聴こえるのは黄色い声援……あ、これみんな女の子だ。

「ラグード王子様ー!」
「その鋭いツメで私の衣服を引き裂いてくださいましー!」
「きゃー、いやーん!」

 お、おいおい、過激だな……
 遠巻きに見ていると人だかりの中心から紅蓮の髪がひょっこりと覗く。

「やあ、ユーシア姫じゃないか!」
「げっ、見つかった」

 ラグード王子は女の子達に笑顔で別れを告げると、一直線に俺の方に駆け寄った。
 狼男の仮装のせいか、なんかわんこ感が増したな……いや、若い娘さんならそれこそ食べられたーいとか言うかもだけど。

「君はお花の妖精さんかい? 可愛いね」
「あ、ありがと……ラグード王子も似合ってる、ぞ」

 ラグード王子にはもう姫モードを作らなくていいと言われたけれど、やっぱりまだちょっと慣れないな。
 そう思っていた俺の耳元に、音もなく近づいた狼男の声が囁かれる。

「本当、食べちゃいたいくらいだよ」
「へっ!?」
「あはは、なんちゃってね。こういう格好をしていると、ちょっと悪ノリしたくもなるよね」
「こ、こら! 祭はちゃんと節度を守ること!」

 びびびびっくりした!
 おっさん、イケメンに囁かれるの慣れてねえんだからな!

「ったく……ほら、お菓子」
「あ、これはファイの手作りだね?」
「そうだけど、よく知ってるな」
「俺もさっき会って、ひとつ貰ったからね。彼がくれたのはクッキーだったけど、ほら。デコレーションが一緒だ」

 言われて見れば王子の持っているクッキーも、アイシングっていうんだっけ……描いてある絵が同じだ。

「ひとつひとつにこんなん描いて、マメだなあ……」
「こういうことでも楽しませてくれるんだね」

 うむぅ、これが女子力ってヤツか……いや、男だけど。

「クッキー、さっき一枚食べたんだけど美味しかったなあ。また今度作ってもらいたいな」

 そして餌付けされてるわんこが一匹、と。

「あっ、そういえばマオルーグは今日は一緒じゃないのかい?」
「べ、別にセットという訳じゃないんだぞ」
「そうかあ……」

 見るからにしょんぼりするラグード王子、仮装の獣耳と尻尾も垂れてやっぱりわんこ感が増し増しだ。

「……マオルーグに会いたいのか?」
「あ、いやその……何だろうね、あはは……」

 王子は珍しく言い淀み、視線をあちこちさせる。
 そして意を決して「笑わないでくれるかい?」と距離を詰めた。

「俺もよくわからないんだけど、なんだかあの人を見ていると変な感じがするんだ」
「へ、変な感じ……というと?」
「褒めてほしいとか、頭を撫でてもらいたいとか……なんでだろうね?」

 あっ、それたぶん前世のご主人様というか飼い主だからじゃね?
……なんて言える訳がなく、俺は返答に困った。

 そして……

「マオルーグじゃないけど……とりあえず、今はこれでいいか?」

 前世のことを考えたら、俺なんかに撫でられたくはないのかもしれないけど。
 わしゃわしゃと、炎の色をした髪を撫でてみた。

「ユ、ユーシア姫……」
「わっ、やっぱダメ? 怒った!?」

 俯いてぷるぷる震える王子に俺は慌てて手を離すが、

「……も、もっと……!」
「へ?」
「すごくイイよ、姫! もっと撫でて!」

 その手をガシィっと掴まれて、息がかかりそうなほど迫られる。
 わーっ、近い、イケメン近いっ!

「お、おちつけ! なんかいろいろ誤解を招く!」
「あっ……す、すまない。なんだか撫でられると興奮して……」
「それもだいぶ誤解を招く発言だな……?」

 わんこ……じゃなかった、ドラゴンとしては間違ってないんだろうけど、今のこいつはイケメン男子だからな……
 頭を撫でろ、なんて興奮気味に迫ったらアウトだろう。
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