お忍び祭

 世界を旅する傭兵だったマオルーグは、いろんな話を聞かせてくれる。
 今回俺が強く興味を引かれたのは『お忍び祭』という、年に一度遠く辺境の村で行われる不思議な祭のことだった。

「魔王や魔物の住む魔界に、妖精界……人間界とは切り離された世界があることは知っているな?」
「おう。普通なら人間界と交わることのない世界だったな。お前ん家行くのに特殊なオーブで魔界への扉を開いたのは覚えてるぞ」
「我が城をその辺の家みたいな呼び方するな」

 話が逸れかけたところを、咳払いひとつで引き戻すマオルーグ。

「……我が旅の途中で訪れた、とある辺境の村……そこはどうやら異界との境界が他より薄いらしいのだ」
「えっ、それ大丈夫か?」
「古くから伝わる昔話では、村の子供がたまたま迷いこんだ妖精の子供と知り合い、時々遊んでいたらしい。妖精とは知らずにな」

 どうやら俺が心配するようなことにはならなかったらしく、ホッと胸を撫でおろした。
 何らかの悲劇が起きて争いの火種になるんじゃないかとか、つい嫌な方向で考えちまったよ……

「後に親が妖精の正体を知ったが、村の連中は呑気で穏やかな気性の奴が多かったようだな。人間のフリをして子供を迎えに来た妖精達を、自分達も妖精の仮装をして迎え入れたのだ。これならば本物の妖精が紛れ込んでいてもわからぬぞ、という意図でな」
「ほうほう」
「妖精達はその村を気に入り、年に一度遊びに来るようになった。その時には村人たちも仮装して祭を開き歓迎したそうだ」
「それが『お忍び祭』か……」

 俺が世界を旅して回った時は魔王を倒す使命のことばかり考えていたから、祭とか全然それどころじゃなかった。
……今思えば、生き急いでたなあ、俺。

「近年では魔物の仮装もするようで、こっそり紛れ込んで祭を楽しむ魔物もいるらしいぞ」
「それで村が無事なんだから、平和なもんだなあ」

 どこもかしこもそこみたいに平和だったら俺も……いや、やめとこう。

「平和、か……よし、うちでもやろう! 仮装してお祭りとか盛り上がりそうだし!」
「言うと思ったぞ。貴様はこういう話が好きだからな」
「ただ、小さな村でひっそりやるのと小国とはいえ国でやるのとは規模が違う。治安や景観には注意を払いながら、適度に適切に楽しむこと……なんて、ちょっとは王族っぽいか?」
「当たり前のことを言っただけだろう」

 その当たり前が大事なんだよ、とマオルーグの唇を指先でちょんとつついてやる。

「んで、祭についてあとは何かあるか?」
「そうだな……仮装をしている者に菓子をねだられたら、あげなければイタズラをされてしまうルールだ。だから、祭の間は菓子を持ち歩くことになる」
「へえぇ、おもしれーな」

 遠く異国の村のあたたかな交流に思いを馳せながら、俺はマオルーグから祭の説明を聞いた。
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