「さて、次はあたしたちかい」
「そのようだね」
「ありゃりゃ、もう？」

　続いてパンキッドとシーフォン、モカが己の変化に気づき、呟いた。

「僕は短い間だったけど、楽しかったよ。沢山の得難い体験をした」
「アタシなんてアンタたちが旅してなきゃ、一生出会うこともなかったかもしれないよ」
「言われてみたらそうかもねぇ。ボクも王都から出ないだろうし」

　それぞれが感慨深げにこれまでの道のりを思い返す。
　と、シーフォンがふいにパンキッドに向き直った。

「……パンキッド」
「な、なんだい、改まって」

　英雄王と称され、若き日には女子の黄色い声援を浴びたイケメン騎士である父の面影を濃く残すシーフォンが真剣な表情をすると、妙な迫力がある。
　闘技場でどんな強面の大男と対峙しても動じないパンキッドを、思わずたじろがせるほどに。

「王都で暮らす僕と、闘技場で賞金稼ぎをして生活する君……恐らく、旅の記憶がなくなれば接点はほとんどないだろう」
「まあ、お互いの両親が仲良しみたいだけど……一緒に暮らしてるワケじゃないからね」
「ああ。最後になるかもしれないから、聞いてほしいことがあるんだ」

　カーマインの瞳に真摯な光が宿り、我知らずパンキッドの喉が鳴る。
　なんだなんだ、といった感じのカカオとメリーゼと、ごくりと息を呑むクローテとモカ。

「僕はいつの間にか、君に恋をしてしまったようだ」
「は、えっ？」

　驚き、みるみる赤くなるパンキッド。
　陸にあげられた魚のように口をはくはくとさせ、言葉が出ない彼女に、シーフォンはくすくすと笑う。

「君がすぐ答えられるとは思わないから、返事は今は聞かないよ。だけど、僕の一途さは知っているだろう？」
「あ……ああ」

　旅に出る前のシーフォンがメリーゼを追いかけていたことは、この場の誰もが……当のメリーゼ以外が知っていた。
　あれは一途というより盲目的と言った方が正しいな、とクローテが内心でぽつりと零す。

「……だからね、賭けをしよう。もし、また僕が君と出会うようなことがあったら、返事を聞かせてほしい。どうだい？」
「そんな、こと……」

　約束したところで、記憶は消えてしまうのだから意味はない。
　王都の王子と遠く離れた東大陸の闘技場のアイドルが出会う確率など……

「……そこまで言うなら闘技場に来な。そのすましたツラをぶちのめしてやるから」
「返事は？」
「そのあとだ！」
「ははは、わかったよ」

　そうして、三人の姿も次第に薄れていく。

「いやあ、最後にいいモン見られたわー。これ、ホントに忘れちゃうのかなー？」

　ニヤニヤとパンキッドを見上げていたモカが、そう言うとカカオとメリーゼに視線を向ける。

「シフォ兄も無事告ったし、今度は二人の番だねぇ。見られないのがザンネンだけど……」
「ははは、そういう訳だ。まあ頑張りたまえよ、カカオ！」

　シーフォンとモカ、いとこ同士だという二人は、たっぷりと含みをもった最上級の笑顔で去っていった。

「が、がんばれって……」
「さすがにもう意味がわからない訳ではないだろう？」
「……お、おう」

　告白の空気にあてられて赤面していたカカオを、幼馴染のクローテが軽く小突いた。