68~反撃、そして~

――何故だ……こんなムシケラに。

 途中まで“アタシの物語”の筋書きは完璧だったハズだ!

 ちょっとやりごたえのありそうなステージを見つけたから遊んでやろうと思った、それだけなのに……――


「ただノ雑魚が調子に乗ッテ……!」

 取り込んでいたもう一人の自分も消滅し、力の大半を失ったテラはそれでも倒れてなるものかと両腕を広げ、あらゆる所から災厄の眷属を無数に生み出す。
 このフィールドはそもそもテラの本体だったモノ……かつてアラカルティアに現れた“総てに餓えし者”と同質であるため、眷属を生み出すことも可能なのだろう。

「もうこの場に貴方の言う“雑魚”なんていないんじゃないかしら?」
「何もできないガキだったくせに……」
「その子供が努力を重ねて今ここにいるの。偶然は、必然よ」

 未来から来た神子姫は、自分が時を超えて来たことも含めて全ては己が引き寄せた運命だと語る。
 分岐した未来のランシッドが彼女やガレを選んだのは、彼らが大切なものを喪った過去から立ち止まらずに進み続けてきたからだ。

「まずはお掃除しなくちゃね」
「手伝おう、アングレーズ」

 シャランと鈴の音が鳴り響き、前線に復帰した彼女の隣でクローテが水のマナをかき集める。
 アングレーズがそれに光のマナを加え、はちきれんばかりの巨大な水塊を作り上げた。
 魔物が襲い来るよりも早く……複合術の利点は複数の術者が分担することで、素早く術を完成できることだ。

「清き力抱きし水泡よ!」
「刹那に弾け、魍魎を滅さん!」
「「爆ぜよ!」」

 泡が弾けるというよりも、爆発に近い勢いで水塊が砕け散る。
 輝きを帯びた巨大質量の水に襲われ、魔物が次々に消滅していく。
 涼しい顔で銀の睫毛を伏せるクローテに、テラがすっかり歪んでしまった左右の目をぎろりと向けた。

「オマエだ……オマエをコロし損ねてかラ、なにもかもおかしくなッタ……もう一度、オマエをこの両手で壊シテ……!」
「何度も言わせるな。おかしくしたのはお前だろう」

 一瞬で距離を詰めてきたテラの猛襲を、持ち前の反射神経と身軽さで難なく躱すと、クローテは不敵に微笑む。

「お前が狂わせた我々の物語、正させてもらうぞ。それに、違う未来を歩んだ“私”の仇討ちもな」

 冷たく、妖しく、魅惑的に。
 この場に大衆がいれば男女問わず魅了したであろうその笑みは、彼ならではの美しさだった。
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