63~見出した光~

 何度か戦闘を繰り返しながらしばらく進んでいって。

「ねえ、おじさま」

 随分歩いたがそろそろ仲間と出会えるだろうか、などとぼんやり考えていたブオルの背後から、ふいに控えめな声が呼びかけてきた。

「どうかしたか?」
「いえ、ただ少し……」
「んん?」

 見上げるほどの大男だが威圧感はなく、首を傾げながら問う声音は穏やかで、子供にかけるような優しい響きがあって。
 そんなブオルに「本当にみんなのお父さんよね」なんて内心で呟いて、アングレーズはぷっくり形の良い唇の端を僅かに上げた。

……だが。

「あたし達、本来は出会わなかったのよね」
「ああ、そうだな。俺なんて死んじまってるからなあ」

 ブオルはアングレーズどころか、彼女の両親が生まれるよりも前に亡くなっている人物だ。
 つまり旅の仲間で唯一、テラを倒せば二度と会うことが叶わないのだ。

「随分あっさりした物言いね」
「よく考えたら、元の時代に帰ったら全部忘れるなら、普通に死ぬ瞬間まで生きるだけのことなんだよなって。だったら別にみんなと変わらないだろう?」
「それもそうだけど……」

 おおよその死期を知ってしまって、自分がとっくにいなくなった後の未来のために戦って……それでも、彼を待っているのものは、旅の仲間との永遠の別離。
 自分たちの記憶にすら残らないなんて……アングレーズは運命の残酷さに俯くが、

「俺たちの旅は、ランシッド様が覚えていてくださるそうだ」
「え?」
「二度とこんなことが起こらないように……時の精霊としてな」

 ブオルはにっこりと笑ってみせ、言葉を続ける。

「何も残らない訳じゃないんだよ。俺たちのことは、この旅は、ちゃんと“本当にあったこと”なんだ」
「本当にあったこと……」
「……まあ、そうだな……本来の歴史に戻っても、一応俺の顔は王都のマーブラム城で見られるぞ。女装したやつだけど」

 彼が言うのは騎士団の女装コンテストでの肖像画のことだろう。
 どうせモラセス様がいつまでも飾ってるだろうからな、と困り笑いで頬を掻く。

「だからさ、暗い顔してちゃダメだよ。これからテラをブッ飛ばすんだろう?」
「おじさま……」
「笑ってくれ。アングレーズは笑顔がとても綺麗な、素敵な女の子だから」

 ああ、もう、ずるい。
 他意も下心も何もなく、そんなことをそんな優しい顔で言うのだから……アングレーズは少し悔しく思いながら、

「じゃあおじさま、少しだけ屈んでね」
「ん?」

 言われるまま頭を下げ、近くなったブオルの頬に軽く触れるだけの口づけを落とす。

「……!? あ、アングレーズっ」
「うふふふ……おまじないよ、おじさま。無事に帰れるように、ね」

 不意討ちをくらって目を白黒させる大男に、悪戯が成功した子供のような笑顔で美女はそう言った。
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