62~暗闇の中で~

「なるほど、その魔学装置で僕らを見つけられた訳か」
「そゆコト。合流できたのが二人で良かったよ」

 装置を片手に歩きがてら、モカはシーフォン達にこれまでのいきさつを説明した。

「アタシたちで良かった?」
「クロ兄ぃやガレっちは自前でこういうコトできるからね」
「なるほど。二人がうまく他の仲間を見つけられていれば全員が揃うのも難しくないかもね」

 視界がろくにきかない暗闇で、頼りになるのは他の五感……特に、聴覚だろう。
 以前障気の靄に視界を奪われた状況で孤立してしまった自分を救出したのも、優れた聴力をもつガレだったとモカは二人に語った。

「あの時からヌスミギくんのパワーアップを考えていたんだよねぇ。おかげで今回役に立ったよ」
「ん? それは元々作ってはいたのかい?」

 話の流れで何気なくこぼしたシーフォンの疑問に、モカがぎくりと硬直する。

「……作ってたね。カカオとメリーゼのことで」
「わーっパン姐、余計なコト言わないで!」
「あの二人がどうかしたのか?」

 冒険の初期からカカオとメリーゼのじれったい仲にやきもきしつつその進展を応援していたモカが、二人っきりの時の彼らの会話を盗み聞こうとしていたところに遭遇したことがあったパンキッドは、やれやれと肩をすくめた。
 あんな不純な動機で作られた道具が、今は彼らの命綱となっているのだから、人生わからないものである。

「そ、それよりさ、二人は一緒に飛ばされたの? ボクは一人ぼっちだったのに運いいねーふたりとも!」
「!」

 これ以上追及されるとマズいと苦し紛れに話題を変えれば、ボンと赤面するパンキッドの反応はモカの予想外のものだった。

「パン姐?」
「べっべべ別に、なんでもないよ! たまたまだよ、たまたま!」

 あはははは、と乾いた笑いが奇妙な空気を生み出す。
 何かあったであろうことは、具体的な内容以外は容易に想像がつく。

「シフォ兄……」
「彼女は恥ずかしがり屋さんだからね。僕たちのヒミツにしておくよ」
「何それ超気になるー!」



――――バラバラに分断されて一度は意識を失ってしまったが、その直前のことはシーフォンの記憶にしっかり残っていた。

「パンキッドっ!」

 強い力で飛ばされる寸前、思わず近くにいた彼女の手を引き、抱き寄せたことを。

 離れ離れになどさせるものかと強く強く抱き締め、ついには放さなかったことを。

 そして……腕の中の彼女が驚き戸惑いながら、状況を理解するとギュッと目を瞑ってしがみついてきたこと、その表情を――――


(可愛かった……なんて言ったら殴られちゃうだろうね、きっと)

 クスクスと笑うシーフォンを、パンキッドは鋭い眼光で睨み威嚇するのだった。
4/5ページ
スキ