62~暗闇の中で~

 暗い暗い空間に、足場が浮かぶ不思議な場所。
 しんと静まり返ったそこに生物の気配はなく、どこかうすら寒い空気に身を震わせる小柄な少女がひとり。

「まいったなあ……」

 フロスティブルーの髪をひとつ結びにした少女……モカは、母親譲りの眠たそうなルビーの目をさらに細め、遠くの景色を見ようとした。
 いよいよ決戦とテラのもとへ殴り込みに行ったはいいが、ゲートに飛び込んだ彼らは強い力で引き離され、散り散りになってしまったらしい。
 気づけば彼女の周りに仲間の姿はなく、入ってきたゲートも見当たらない……つまり、一時退却もできない状況でただひとり。
 幸い魔物の存在も近くには感じられないが、仲間を探しにうろつく先で遭遇しないとも限らないだろう。

(敵の本拠地でこの状況……ボクにとっては特に絶体絶命じゃん?)

 モカの頬をひやりと嫌な汗が伝う。
 彼女は後方からの魔術やサポートを得意とするタイプだが、その力は時間稼ぎをしてくれる前衛がいてこそのもの。
 以前にも孤立したところを狙われ、自身の弱みは嫌というほど知っていた。

(足場は途切れ途切れだし壁もないし、前みたいに雷を走らせて合図を届けるのは難しいな……)

 前回はだだっ広い平原だったため地面に雷を走らせて仲間に位置を知らせることができたが、窮地を救った苦肉の策も二度は使えないようだ。
 それに得体の知れない空間で下手に魔物にこちらの居場所を教えるような真似はできない。

……それなら。

「よーし、こんなこともあろうかと!」

 モカは背中の箱から奇妙な道具……医者が使う聴診器をもっと大げさにしたような形の装置を取り出した。

「指向性集音装置・ヌスミギくん!」

 盗み聞くからのヌスミギくん、というあまり褒められたネーミングではないそれの耳あて部分を装着し、管についた小型のリモコンでスイッチをいじる。
 実際これが作られた動機も大概だったりするのだが、まあそこは置いといて。

(これだったらクロ兄やガレっちみたいに遠くの様子を知ることができるよね……たぶん)

 音を拾いやすいようにラッパ状に広がった集音装置をあちこちに向けながらモカは思案した。
 たとえば自分とは違って誰かと一緒に飛ばされた者の会話や、足音、戦闘の音……誰かひとりくらいは、何かしらの音を発しているはずだ。

 他の仲間のように秀でた能力がないなら、知恵と道具で補う……過酷な旅について行くため、モカが導きだした手段だった。

……と、

(おっ?)

 大雨のような雑音だらけの中に、不意に何かを捉えてモカの手が止まる。
 その方向に向け、装置の感度を少し上げてみる。

(人の声……それに、これは……!)

 音の正体を理解したモカは、すぐさまそちらに向かって駆け出した。
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