城下町に幽霊は踊る

 そしていよいよ夜。
 人っ子ひとり出歩かない静かな城下町は、昼間の喧騒が嘘みたいだ。
 マオルーグに正論を突きつけられた俺は、それでも自らの目で真実を確かめたくて、こっそり出かけることにしたのだ。

「何をしている、貴様」
「げっ」

 まあ、あっという間に見つかったけど。

「は、早いな……」
「この流れで貴様がどう動くかなど予想済みだ」
「いやーん、ばれてーら」

 切れ長の赤眼が呆れた風に細められる。
 でも、それがわかっていて城下町で声をかけたってことは……

「……貴様が言っても聞かぬ奴だということもわかっている。ならばせめて我の傍を離れるな」
「あら、マオたんったらイケメン」
「やかましい。今すぐ部屋まで担いでいくぞ貴様」
「あっそれは勘弁して」

 物理的にお持ち帰りじゃねえかそれ。
 それやってるとこ誰かに目撃されたらアウトだぞお前。

「って冗談はさておき……さすがに夜中ともなると静かなもんだな」
「ふむ……幽霊などとくだらぬ噂があるが、この雰囲気は嫌いではない」

 夜の闇は落ち着く、とマオルーグ。
 そういや魔王の城も全体的に薄暗かったな……雷がうるさくて、静かではなかったけど。

「この闇が魔王たる我を祝福しているようだわ、って感じか?」
「ぬ……さ、さすがに今は魔王ではないからな……」

 視線を泳がせて言葉に詰まっているあたり、満更でもなさそうだ。
 などと緊張感のないやりとりをしていると、

「魔王様ですって……?」

 ぼう、と白い影が俺たちの目の前に現れた。

「うおっ!」
「にゃー!?」

 おっ、おばけ、本物!?

「私ですよ、ユーシア姫」
「へ?」

 そう思ったのは一瞬だけで、白い影は頭から真っ白な布を被ったマージェス王子だと判明する。

「な、なんだ、びっくりした……」
「ふふふ、驚かせてすみません」

 冷静に見るとたおやかな美人のマージェス王子に白い布はなんだかとても綺麗で似合っているんだが、今このシチュエーションで出会うと幽霊にしか見えねえよ!

「王子、その格好は一体……?」
「幽霊に近づくには自分も幽霊になりきらないと、と思いまして」

 なるほど、それでその仮装か……
 と、一段落ついたところで。

「……マオたん、ちょっと苦しいんだけど」
「ぬお!?」

 マージェス王子の登場に驚いたマオルーグは、片手で咄嗟に俺を引き寄せてそのままぎゅうぎゅうと抱き締めていた。

 これは、まるで……

「さすが護衛の騎士様、しっかりと姫をお守りしているのですね」
「ぬっ、これは、その……」

 マージェス王子の言葉どおり、大柄なマオルーグにすっぽり包まれる形になる今の状態は守られている感が強い。

 元は守る側の立場だったからもどかしいやら悔しいやらもあるけど、

「……ありがとな」
「ぐうっっ」

 うん、やっぱここは素直に礼を言っておこう。
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