聖巨人と導きの妖精

 異世界召喚された青年・咲間晴人は導きの妖精を名乗る小さなおっさん・セツハと聖巨人(正式な名前は魂血機将と書いてコンチキショウらしい)とかいう巨大ロボットと出会い、この世界を救うことになったんだとかなんとか。

「なあ、コン……聖巨人っていつ必要になるんだ?」

 導きの妖精に選ばれた俺が気安くその名前を口にすれば、その辺の木よりよっぽど背の高い巨大ロボットがたちまち飛んでくるため、迂闊に呼べない。

 うっかり言っちまいそうなんだよなあ、コンチキショー。

『……救世主様の愉快なマスコット……?』
「でけえよマスコット!」
『というのは冗談だが俺も言い伝えに従ってお前を導いてるだけで詳細はよく知らないんだよな』
「それでいいのか導きの妖精……どんな言い伝えなんだ?」

 そう尋ねてみるとおっさん妖精は腕組みをしてうーむと唸る。

『えーと確か“この世界に危機訪れし時、妖精の導きにより現れる異世界の救世主が聖巨人を目覚めさせるだろう”……』
「うーん、なんか普通だなあ」
『……“その者、ハーレムラブコメ主人公の如き男なり”……なあこれよくわかんねえんだけどどういう意味だ?』
「人違いです!」
『何が!?』

 普通だと思ったら全然普通じゃなかった……どういう言い伝えだよ!
 ていうか仮にそうだとしても現段階で唯一傍にいるのがおっさん妖精なんだけど!

「やっぱり可愛い女の子が足りないんだ……ヒロインが……」
『いないもんは仕方ないだろ。俺でガマンしとけ』

 何なら可愛いポーズのひとつやふたつしてやるぞ、とおっさんはぶりっこっぽい仕草をした。
 唯一のヒロイン候補がこれか……と遠い目をしたその時だった。

《我が主……》
「へ?」

 おっさんとは違う、別の声。
 しかしどう聴いてもおっさんより渋い、いっそ爺さんみたいな声に、なんとなく嫌な予感がしながら振り向くと……

『わっ、なんだこいつ!?』
《なんだとはなんだ、導きの妖精》

 現れたのは先程話題にしていた聖巨人……だと思う。

 ただしその体はややデフォルメされ、おっさんと同じくらいの大きさ、つまりは手のひらに乗るようなサイズになっていた。

 子供の頃にこういうプラモデル作ったなぁ……

「え、え……まさかお前……」
《我が名をお忘れか、主よ。この聖巨人“魂血機将”を》

 いやサイズも声も全然違うし!
 お前初回起動時は無機質な機械音声だったろ!

「え、なに、どゆこと……?」
《なに、主との繋がりをより強く深くするためにはもっと主との接触を増やさねばと思ったまでだ》
『つまり、より仲良くなるために一緒にいられる時間を増やそうと?』
《その通り。この体はそのための器よ》

 まあ確かにあの巨体じゃ一緒にはいられないわな。
 おっさんの話だと聖巨人は俺とシンクロすると格段に動きが良くなるらしいし、そう考えれば必要なことなんだろうけど、なんだろうけど……

《これでずっと一緒にいられるな、我が主。導きの妖精などよりよほど役に立ってやれるぞ?》
『なっ……お、俺の方が相棒と一緒にいた時間は長いし、何より相棒をこの世界に呼んだのは俺なんだからな!?』
《ほんの少し先に知り合っただけではないか。心の距離は時間とは比例せんぞ。今にわしの方が主に必要とされるわ!》
『むきぃーなんだよこいつ! 相棒は俺の相棒なんだぞ!』

……なんだこれ。
 ちっちゃいおっさんとちっちゃいじいちゃんが俺を取り合いしてる?

“その者、ハーレムラブコメ主人公の如き男なり”

 呆然とする俺の脳裏に、さっき聞いた言い伝えが蘇った。

 確かにシチュエーションだけ見るとそれっぽいけど……まさかこれが?

《さあ、我が主よ!》
『俺とこいつ、どっちが相棒に相応しい!?』

 手乗りサイズの妖精おっさんの次はじいちゃんロボってどんなマニアックなハーレムラブコメなんだよ!

「お……俺のために争うのはやめろー!」

 とりあえずそれっぽいことを言ってみたら争いは止まったが、ふたりに「え?」って顔をされてとても恥ずかしかった。
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