ラスボスはつらいよ

「魔王、覚悟っ!」
「ひゃあ!? ゆ、勇者め、また性懲りもなく……って、勇者じゃない?」
「ジマリッハ王国王女、セーラ・エル・ティナ・ジマリッハと申します」
「ああ、これはどうもご丁寧に……ん? 確かジマリッハの姫って……」
「不覚にも貴方の部下に連れ去られ、この城の地下牢に閉じ込められておりました」
「それがどうしてここにいるんだ」
「貴方のせいです!」
「は?」
「私を助けに来た勇者様を、貴方が何度も何度も倒して追い返すからっ……これはもう自力で何とかしないといけないと思いまして!」
「行動力の塊か! というか牢屋を抜け出せたならどうして帰らずにこっちに来た!?」
「それは……脱走に気づいた魔物達に追われるかもしれないと思うと、怖いじゃありませんか」
「うんまあ確かに」
「ですが魔王を討ちとり首を手に提げて帰れば、魔物に襲われることもないでしょう?」
「発想が蛮族!」
「それが叶わぬならせめて刺し違えることができれば、と」
「なんでそんな勇ましいの? 魔物達には言っておくから、いいよ普通に帰って」
「えっ?」
「だーかーらー、帰っていいって。ウチの側近がひどいことしてごめんな?」
「そ、そんなあっさり……」
「あ、でもひとつ条件が」
「なっ、なんです? まさかカラダで払えとかそういう……!?」
「どこで覚えたんだそんなの!」
「攫われた姫の末路といったらそういうあれかと……お父様の本棚に妙にピンクな薄い本が」
「隠しとけよお父様!」
「それで、条件とは……?」
「ワシを連れて逃げてーーーー!」
「なんですってーーーー!?」
「いや、ワシも人間界行きたいのよ。でも側近がダメって」
「魔王自ら乗り込んで破壊の限りを尽くすつもりですか?」
「あー……ちょっとこっち来てこれ覗いてみろ。遠見の玉……正式名称は“ググリシャスの宝珠”という」
「ググ……?」
「この玉に言葉を投げかけると、遠く離れた場所の様子を映してくれる」
「まあ!」
「で、これがワシの検索履歴」
「えーと……『グルメ』『人間界・スイーツ』『人間界・おいしいもの』……?」
「人間界って美味しそうなもの沢山あるよね! ジマリッハ城下町カフェのふわふわスフレパンケーキ食べたい!」
「か、可愛い……魔王のくせになんなのこの可愛いおじさまは……」
「ぬ?」
「なんでもありません!」
「むう、そうか。それにしても側近はどこに行ったんだ?」
「私を攫った者なら途中ばったり出くわしましたがこの手で倒しました!」
「うそぉ!?」
「倒れる際に『あーやられたー面白そうだからこのまま少し泳がせてみよーっと』などと聞こえましたが」
「側近ー! お前ホントにワシの側近ー!?」
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