56~それぞれの前夜~

~ボクの大伯父ちゃん~

アングレーズ「あなたの大伯父さんって、先代の王様の息子さんなのよね?」
モカ「そ。でも王位は継がずに魔学研究所の所長になったの」
アングレーズ「確か、精霊通話機の発明者だって聞いたわ。優秀な方なのね」
モカ「へへん、そーだよ! 大伯父ちゃんはボクの憧れさ!」
アングレーズ「じゃあ、ゆくゆくはあなたもここの所長になるのかしら?」
モカ「うーん、それはどーだろね? 責任とか発生しちゃうとめんどくさいし、いち研究員で時々ビビッドな発明ができればそれでいいかなあ?」
アングレーズ「あら、そうなの」
モカ「でも大伯父ちゃんみたいに世界的な大発明ができればいいなって野望はあるんだ」
アングレーズ「じゃあこの戦いに勝って、それを叶えなきゃね」
モカ「そだね。まず明日がないと話にならないし!」


~クローテの変化~

クローテ「はっ、やあっ!」
ガレ「っと、鋭い蹴りでござるな。そんなに激しく動いて、疲れを明日に残せぬと言ったのはクローテどのでござろう?」
クローテ「お前を見ていたら体を動かしたくなった。少し付き合え」
ガレ「ふふ」
クローテ「何がおかしい?」
ガレ「にゃあ、最初はちょっと近寄りがたい雰囲気すらあったクローテどのが変わったな、と」
クローテ「むぅ……悪いか」
ガレ「そ、そんなことはないでござるよ!」
クローテ「お前が私を変えたんだぞ」
ガレ「それがしが?」
クローテ「恥ずかしいくらいに純粋で、真っ直ぐ向かってくるから……そんなデカい図体で体当たりしてこられたら、動いてしまうのは仕方ないだろう」
ガレ「クローテどの……」
クローテ「……なんでもない。忘れろ」
ガレ「耳まで真っ赤でござるよ」
クローテ「うるさい! もう一戦だ!」
ガレ「にゃー! 疲れを残すなと言ったではござらぬかぁー!」
クローテ「ふん!」


~もどかしいふたり~

シーフォン「さて、友人としてメリーゼを応援することにしたけれど……あの二人はずっとああなのかい?」
パンキッド「アタシの知る限り……というか、モカの話だとずっとああだね」
シーフォン「……はぁ」
パンキッド「さすがに同情するよ」
シーフォン「いや、まあ人それぞれの感覚だろうけどね」
パンキッド「あの二人はあれだからあの二人なんだろうね」
シーフォン「むう、よし。たまに揺さぶって発破でもかけてみようか。刺激で変化があるかもしれない」
パンキッド「そんな、科学の実験とかじゃあるまいし」
シーフォン「この僕を失恋させたんだ、しかも自覚もなしに。少しぐらい良いじゃないか!」
パンキッド「アンタねぇ……」
シーフォン「あんまり遅いと、僕の方が先を越してしまうかもしれないぞ?」
パンキッド「へぇ、もう新しい恋を見つけたのかい?」
シーフォン「子供の頃の一目惚れとは違うから、まだ確信はしていないんだけどね。こちらもなかなか手強そうだ」
パンキッド「そうかい。ま、頑張んな」
シーフォン「ああ。見ていてくれたまえ!」


~もう少し、このまま~

カカオ「雪、本格的に降り出したな……」
メリーゼ「ええ」
カカオ「さすがに冷えてきたろ。中入ろうぜ」
メリーゼ「……まだ、もう少しだけ」
カカオ「おいおい、風邪引くぞ?」
メリーゼ「このホットチョコレートを飲みきったら」
カカオ「だいぶ冷めてねーか? あと一口だし、それに……」
メリーゼ「それに?」
カカオ「メリーゼも落ち着いたみたいだし、いつまでもこうやってくっついてんのもあれかなって」
メリーゼ「いいんです」
カカオ「いいってお前……」
メリーゼ「……もう少しだけ、このままでいさせて」
カカオ「お……おう」
メリーゼ「ごめんなさい」
カカオ「謝るこたあねーよ。いくら強い奴でも、ちょっと寄りかかりたくなる時もあるだろうしな。オレなんかで良けりゃ、胸くらい貸すぜ」
メリーゼ「……ありがとう」
カカオ「おう」


~夜を惜しんで~

ブオル「もう少しで決着がつきそうだな……そしたら、俺は……」

ブオル「……笑ってお別れ、できるかな……なあ、カーシス?」


モラセス「ここにいたか、ブオル」
ブオル「モラセス様」
モラセス「……邪魔したか?」
ブオル「ああ、カーシスのことですか?」
モラセス「話は聞いている」
ブオル「まあ、いろいろありましたけどね……」
モラセス「俺の中にも、二十年前からいてな。まあ最近は歳なのかすっかり静かになったが」
ブオル「あ……」
モラセス「このまま共に変わっていく世界を見守るつもりだ。お前たちがこの旅の行く末を見届けていくのと同じようにな」
ブオル「はは、ご存知でしたか」
モラセス「お前の考えることなどお見通しだ。ところで酒はそれだけなのか?」
ブオル「は、え、酒?」
モラセス「俺も飲むつもりで来たんだ。寄越せ」
ブオル「はー……変わってませんね。さすがに年齢を考えてください。御身体に障りますよ?」
モラセス「スタードと同じことを言うな」
ブオル「そりゃ言いますよ」
モラセス「俺はまだまだバリバリだぞ。とりあえずの目標は百歳だ」
ブオル「……今おいくつでしたっけ?」
モラセス「八十五だ。十五年後にはあいつらが揃うだろう?」
ブオル「!」
モラセス「そいつをこの目で見たい」
ブオル「は、はは……貴方が言うと本当に実現しかねないですね」
モラセス「知っているだろう。俺はそういう男だ」
ブオル「はいはい、よーく存じておりますとも」


~雪降る夜のうらばなし~

デュー「おう、いい感じにロマンチックな夜だな」
オグマ「デュー……言われた通り雪を降らせてみたが、程よくというのがいまひとつよく……」
デュー「幻想的な雪の夜に会話は弾み、程よく冷えて人肌が恋しくなる! そんな感じの“程よく”だ。つまりグッジョブ!」
オグマ「おじさんの発想だな」
蒼雪の舞姫『この男は昔からそんなものだろう』
デュー「おいおい、ひでえな……ていうかオグマ、お前オレより年上だろ!」
オグマ「ははは」
蒼雪の舞姫『それでも、こうすることが彼らのためなのだろう? そうでなければわざわざ精霊にこんなくだらない頼みごとはするまい』
オグマ「そうだな。デューはそういう男だ」
デュー「ちぇ、バレてたか」
蒼雪の舞姫『私もだいぶ人間を学んだからな』
デュー「……今回がひとつの決戦になると思うからな。心に残る夜になればいいと思って……特に、メリーゼにとって」
オグマ「ああ。彼女は強いが、まだ少女だ。この一晩、不安で押し潰されそうな心持ちで過ごさねばならない」
デュー「だからそこにカカオを行かせて雪でムードと人肌をだな……」
オグマ「おじさん」
蒼雪の舞姫『おじさんだな』
デュー「へっ、うるせーよっ」
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