51~王都の戦い~

 結界による安全を誇る王都も、空間転移で内側に直接魔物を送り込まれてしまっては脆いもの。
 それでも騎士団や、加勢した英雄たちの活躍でどうにか住民の避難は済ませられた。

「あとは倒しても倒しても湧いてくる魔物の退治、じゃの」
『うんざりするしぶとさは二十年から変わってねえな、こいつら』

 焔を従えたミレニアがぐるりと辺りを見回す。
 かなりの数を送り込んでいるのか、だいぶ減らしたつもりなのに視界の端に蠢く黒い影に、思わず溜息が零れた。

「こりゃ、ちと骨が折れるのう」

 長引けば騎士たちや、大精霊の加護を受けた自分とていずれは苦しくなってくるだろう。

 ならば一気に片をつけるか、などと考えを巡らせていたその時。

「ママ!」

 大きな箱を背負って駆けてくる小柄な少女に気づき、ミレニアは振り向いた。

「モカ、どうしたんじゃ?」
「スタードおじいちゃんが清き風花に王都の危険を報せてくれたからカッ飛んで来たの! ブオルおじちゃん達はちょっと決戦に行っちゃったけど、何人かは城下町に残って救援活動!」
「決戦……?」

 自分がデューと共にシブーストを発った後、何かあったのだろうか。
 しかし娘はそんな母の疑問には答えず、今は説明している時間も惜しいと構えた。

「とにかくこの場をどうにかしなくちゃ。いくよ、ママ!」
「……ああ、そうじゃな!」

 彼女達が詠唱を始めると、周囲のマナが赤く色づく。
 空気の変化にいち早く気づいた騎士のひとりがそちらを向き、そしてすぐさま部下たちの方へ。

「複合術か……どデカいやつぶっ放すみたいよ! みんな、あの二人を援護して!」

 隊長格らしき女性がぴしゃりと号令をかけると、騎士たちがミレニアやモカを守るように囲みだす。

(悔しいけど、あの黒騎士みたいなトンデモ桁外れな相手にはボクの力は通用しない……でも、ここでならボクにもできることはある!)

 以前、散り散りにされた時に突きつけられた現実と弱点。
 だが同時にそれは自分の役割をはっきりと自覚した出来事でもあった。

 背中のからくり箱と広範囲の魔術による、後方からの撹乱と多数への攻撃……多対多、そして他人と力をあわせることで発揮されるのがモカの能力だ。

「天上より見下ろすは無慈悲なるあか!」
は原始のほむら、恐怖と共に降り注げ!」
「「まとめていけぇぇぇぇっ!」」

 母娘が練り上げたマナが遥か頭上に集い、弾け、火の玉となってあちらこちらに落ちていく。
 そのひとつひとつが的確に、潜む魔物を撃ち貫いた。

『よし、嫌な気配が消えた! この区画の魔物は片付いたな!』
「モカ……しばらく見ぬうちに成長したようじゃのう」
「ん? ま、けっこー過酷な旅してるからねぇ。強い奴ともいっぱい戦ったし」

 それだけじゃなくて、と口を開きかけてミレニアは言葉を止めた。

「そうじゃの。モカは強い子じゃ」

 母がそう笑うと、娘は少し照れながらよく似た笑顔を返すのだった。
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