49~眠れない夜に~

――――いつかの時代、王都貴族街のティシエール邸にて。
 銀髪の老婦人が、自分では絶対に着ない……というか、そもそもサイズ的に着られないだろう衣服を膝上で畳んでいた。

「お祖母様、そちらの衣装は?」
「フレス」

 深い夜空を思わせるような上衣を広げる祖母、ホイップに尋ねるのは孫の青年騎士フレス。
 ゆったりとした異国の旅人風の衣装はここ中央大陸では珍しいが……それ以前に、この大きさを着こなせる人物は現在のフレスが知る限り、いないはずなのだ。

 強いて言うならば、遠い過去になら……フレスの脳裏に、一瞬よぎった大男がいた。

(……あれ?)

 記憶の中の彼が、祖母が手にしている衣装を纏った光景が見えた気がして、フレスは首を傾げる。
 この服はつい最近祖母が旅の商人から購入した反物で作らせたばかりで、祖父のブオルはとうの昔に戦死していて……幼かったフレスは、彼の騎士姿をうっすら覚えているだけである。

(おかしいなあ、こんな事……)

 それでも、刹那に見えた祖父の旅人姿は妙にしっくりきていて。

 奇妙な感覚に戸惑うフレスの耳に、チャラ、と金属のアクセサリーが立てる音が届いて彼の意識を引き戻した。

「フレス……この衣装、大切にとっておきなさい」
「え?」
「いつかきっと、これを必要とする者が現れるから」

 金のコインのペンダントを指先で弄ぶホイップの言葉は、何故か確信に満ちていた。
 彼女は風呂敷に衣装一式を包むと、愛おしそうにそれを抱き締める。

「その衣装は一体、何なのでしょうか……?」
「ふふ、それはな……」

 私の“勇者様”の衣装だ。

 ホイップは心の中で呟いてから、

「……秘密だ」

 そう、笑うのだった。

 フレスがこの“秘密”を知ることになるのは、何年も先の出来事。
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