マオルーグの休日

 勇者の自室に呼ばれたのは、その日の夜のことだった。

「マオ、これやる」
「なんだ?」

 ポンと手渡されたのは少女が持つには大振りな剣。
 ご丁寧にプレゼント用のリボンまで巻いて飾ってあるが、無骨な剣とのアンバランスさが目立つ。

「マオたん、プレゼント羨ましかったんだろ? これで機嫌なおせって」
「なっ!」

 そうか、そういうことか……だから「いいこと思いついた」か!
 そして我がプレゼント欲しさに拗ねているという馬鹿げた勘違い……目の前の勇者の得意気な顔に腹が立ってくる。

 ぬうう、なんだそのドヤ顔は!

「勇者……我は別にプレゼントが欲しかった訳ではないぞ」
「え、そーなのか? けどなんか不機嫌だったじゃん」
「それはっ……それこそ、貴様の勘違いだろう」
「えー、そうかなあ……」

 そうだ、そもそも不機嫌というのが勘違いなのだ。
 それを……剣はともかく、わざわざこんなリボンなどを上から下までぐるぐる巻いたりして……

「やたらと不格好なリボンだな。巻き方は凝っているが……」
「わ、悪いかよ」
「なに?」
「俺が巻いたんだよ、それ……少しでもプレゼントっぽくしたくてさ」

 ふと見ればテーブルには装飾の本が、リボンの巻き方のページで開かれていた。

「これを、貴様が……?」

 一本で蝶結びにでもすれば簡単だろうに、紫と薄桃色、二本のリボンを使っているそれは、不器用が一生懸命巻いたらしいことがよくわかる。
 もしやとは思うが、しばらく一人で部屋にこもっていたのは……

「なるほど、人払いをしていたのはリボン結びに悪戦苦闘しているさまを見られたくなかったからか」
「んにゃっ!?」

 図星か。

「まあそれはともかく……良い剣だな」
「まだ抜いてもいないくせに」
「わかる。スカルグに贈られたのと同じような上等な魔法金属の剣だろう?」

 手にしただけですっと魔力が馴染むような感覚……今まで使っていた剣よりも格段に良いモノだろう。

「ほら、せっかくうちに来たんだから心機一転、剣も新調したらどうかと思ってさ……マオたんの剣、だいぶボロボロだったし」
「む、気づいていたか」

 見当違いの勘違いはするくせに、妙に目ざとい奴だ。

「しかし剣はともかく、このリボンはな……」
「うっせえなあ。さっさと解いちまえばいいだろ!」
「……いや」

 勇者様が自ら飾ってくださったリボン……それを一瞬で解くなんてとんでもない。
 我はテーブルに置いてあったハサミで鞘に巻かれたリボンを切ると、花のような形に結んである部分だけ綺麗に分離させた。

「せっかくだからこれは我の部屋にでも飾っておこう」
「へ?」
「ククク……こいつを見る度に我は不器用な勇者を思い出して笑いがこみ上げてくるだろうな!」
「な、なんだとー!?」

 ふははは、真っ赤になりおって!
 我のためなどにこんな、健気な、可愛い……ではない!
 こんなふざけた真似をするからこうなるのだ!

「礼を言うぞ、勇者……実に愉快だ。お陰で気が晴れた。最高の休暇だったぞ!」
「ったく……よくわかんねー奴だな」

 そうだ、別にプレゼントに対して礼を言っている訳ではない!

 今ものすごく機嫌が良いのは、プレゼントが嬉しい訳では……

 人払いをしてまで一生懸命リボンを飾ってくれたことに胸を打たれた訳では……

 断じて、ないのだからなっ!
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