3~有り得た未来、有り得ない出逢い~

――歴史をねじ曲げようとする者、それに抗う者……形は違えど、それぞれの時空干渉により、次元の壁は薄く、脆くなりつつあった。

 そうして生じた綻びは、それでも通常ならば人間に認識されることのないものだったが……




「……あれ?」

 カカオ達が過去に行っていた頃、マーブラム城の、肖像画が並ぶ廊下にて。
 城の中もだいぶ奥に進んだ位置だというのに、まるで自分がどうしてここにいるのかわからないといった顔をして立ち尽くす男がいた。

「ここは城、だよな……?」

 キョロキョロと辺りを見回す大柄な男の身を包む騎士の服。
 オレンジ色の短い髪と、同じ色の穏やかで人の良さそうな垂れ目。
鼻の下と顎にうっすらと無精髭を生やし、縦にも横にも大きい、熊のような体格の彼は一度見たら忘れられない外見のはずなのだが、

「そこにいるのは誰だ!」

 王都を護る若き騎士達は、彼を見るなり不審者として身構えた。

「ありゃ、新入りか? 俺は……」
「い、いや、待て、あの顔もしかして……!」

 騎士達の視線はゆっくりと男を通り過ぎ、その奥にある突き当たりの壁へ。
 みるみる青ざめていく若者達に、男もおそるおそる彼等の見た方を振り向くと……

「げっ……」

 男も同様に青ざめ、顔をひきつらせた。
 そこにあったのは周りの肖像画よりも一際大きく、そして男そっくりの人物が女装させられやけくそになって笑っている姿が描かれたものだった。
 現在の王都騎士団なら誰もが知る、その名は。

「ぶ、ブオル子さん!」
「ブオル子さん言うなぁ!」

 その名に嫌な思い出のある男は反射的に叫んだ。
 しかし声は届かず、騎士達は次々に憶測を始める。

「いやでもブオル子さんは伝説のコンテスト優勝者で七十年も昔の……」
「じゃあつまり目の前にいるのは……」
「「おっ、お化け……!」」

 そうして導きだした結論に、彼らは悲鳴をあげて一目散に逃げ出してしまった。

「お化けって、微妙に傷つくし……城を護る騎士がそれくらいで逃げ出して、俺が城に侵入した危険人物とかだったらどうするんだよ……」

 がしがしと頭を掻き、溜め息を吐き出す男。

「しかし、七十年も昔っつったな……?」

 もう一度辺りを確認してみると、飾られた肖像画……騎士団女装コンテストの被害者の数が、彼が知っているよりだいぶ多く、城の中も全体的にあちこち違いが感じられる。
 加えて先程の騎士達の発言から想像のつく、自らが置かれた状況は……

「ここ、もしかして未来の王都なのかぁ!?」

 だとしたら、今の自分は城をうろつくただの怪しい奴だ。
 早くどこかへ身を隠さなくては、とでかい図体で慌てだす男……ブオルを、やや離れた場所からじっと見つめる影があった。
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