3~有り得た未来、有り得ない出逢い~

「時空干渉……英雄を狙う者、か……」

 城の奥にある私室にカカオ達を招いた王は、手乗りサイズの毛玉から元の姿に戻ったランシッドの口からこれまでの経緯を聞かされ、顎に手を置いた。

「まあつまりは僕も含め、デュランやミレニア、あの時一緒に戦ったみんなが危ないってことだよね?」
『そういうことになる』

 時空干渉によってもたらされる影響は、恐らくは連鎖的に拡がっていく。
 最初に狙われた鍛冶職人でカカオの祖父ガトーだって、直接ではないが村や町を救っている。
 それを行う前に殺されてしまえば、彼だけでなく彼が起こした行動によって救われたものたちも消えてしまうかもしれないのだ。

「ランシッド、時空の精霊である君の力でなんとかならないのかい?」
『うーん……今回のガトーみたいに個々の対応は出来ても大元をどうにかしないことには、もぐらたたきみたいな状況が続くだけなんだ』

 相手が何者かもわからない今はどうしても後手に回ってしまうね、と肩を竦めるランシッドを、モカが机に突っ伏したまま顔だけでじっと見上げていた。

「面白そうだからついて来たケド、なんだかすごい話になってない?」
「だから言ったんだよ。面白半分で首を突っ込むなって」

 そう言われて不満げな少女の額を指先でつつくカカオに、クローテは長い溜め息を吐く。

「……我々も同じことだ、カカオ」

 色素の薄い長い睫毛を伏せた切れ長の目は、冷めた色をしていた。

「わかっているだろう。既に今回の件は我々が……一般人のお前と、駆け出しの騎士二人でどうにかなる話じゃない」
「けどっ……!」

 冷静なクローテと熱くなるカカオの口論に挟まれ、困り顔になるメリーゼ。
 そんな彼等を眺め、英雄王はふむ、と口許に手を置いた。

「そうだね、確かに時空干渉の対処にはいろんな危険が伴う。若い、言ってしまえば未熟な、そして未来ある君たちには任せられない」

 王にぴしゃりと言い放たれれば、さすがのカカオも黙るしかなかった。

 だが、

「僕も狙われるんだったら直接撃退しに行きたいしねぇ」
『あ、それは出来ないんだ。君ならそう言うと思ったけどね』

 もう割と行くつもりになっていたのか、英雄王は時空の精霊の言葉に「なんだって!?」と心から驚いたのだろう声を発した。

『自分で自分の過去に干渉はできない。っていうか、それで君にもしものことがあったらそれこそおおごとなんだからね?』

『立場わかってる?』と、もはやいち騎士ではなくなったトランシュ……英雄王ランスロットに、生前は同じく王であった時空の精霊が注意するが、

「大丈夫、負けなきゃいいのさ!」
『この脳筋王!』

 爽やかに笑って胸板を叩く王に、一瞬全員が呆れを隠せなくなるのだった。
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