ラスボスはつらいよ

「我が側近よ」
「なんでしょう、魔王様」
「少し出かけてこようと思うのだが」
「いけません」
「なぜだ!?」
「……では聞きますが、どちらへお出かけなさるおつもりで?」
「ジマリッハ王国の城下町だ」
「勇者が生まれた町じゃないですか! 敵の本拠地ですよ!?」
「うむ。勇者の動向を探ろうと遠見の玉を覗いていたら城下町に新しくオープンしたカフェのふわふわスフレパンケーキともちもちタピオカが絶品らしくてな。これはワシ自ら出向くしかなかろうと」
「そんなライトな理由で御自らお出でにならないでください」
「だって」
「だってじゃありません」
「ずっと玉座に座りっぱなしは体にも良くないぞ」
「外出中に勇者が来たらどうするんですか!」
「勇者ばっかり自由に出歩いてずるくない?」
「貴方を! 倒しに! 来てるんです! ほら今日も勇者が来た時のセリフ練習しますよ!」
「もうとっくに丸暗記してしまったぞ……」
「とにかくジマリッハ王国はダメです。どうしてもと言うなら私が人間に化けて買ってきますから」
「できたてをその場で食べたいのー! ふわふわじゃなくなってしまうぞ!」
「めっ!」
「けち」
「ラスボスがホイホイ出歩いてスイーツ食べ歩いたら威厳も何もないでしょう」
「えー、じゃあラスボスやめる」
「むう……なら料理人を攫ってきましょうか?」
「お外で食べたいのー! 魔王城暗い!」
「ムードがあると言ってください」
「ムードとか魔王らしさを重視した結果ワシの意思は犠牲になるのだな……」
「貴方に憧れる魔族も大勢おりますので」
「そんなの知らんし……あっ、だいたいワシまだ魔王なりたてで何も悪さしとらんぞ! 勇者に倒されるいわれはなくない?」
「ああ、そのことでしたら御安心ください」
「えっ」
「既に私めがジマリッハ王国の姫を攫い、人間どもに宣戦布告をしておきました。魔王様の印象ばっちりです!」
「お、おバカーーーー!」
「やはり魔王といえば姫を攫わねばですよね!」
「ですよね、じゃない! 元いたところにかえしてきなさい!」
「あれ、勇者来たみたいですよ」
「えっ、やだちょっと早い!」
「それでは私めは勇者を迎え撃ってきます」
「そ、側近! ひとりにしないでーーーー!」
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