聖巨人と導きの妖精
現代日本に生きるごく普通の青年だった俺はある日足を滑らせて落ちたマンホールから見るからにファンタジーな異世界に来てしまった……以上、あらすじ終了!
と、とりあえず、最近よく見る異世界転生とかじゃないよな……俺、まだ生きてるっぽいし。
『選ばれし異世界人よ……この世界を、助けて……』
うお、お決まりのなんか来た!
異世界に戸惑う俺の前に現れたのは、てのひらにちょこんと乗れるくらいの小さな、背中に羽を生やした人間……いわゆる、妖精ってやつなんだろうけど……
『……なんだその目は。異世界人には妖精は刺激が強すぎるか?』
いや、絶句するわ。
硬そうな胸板、引き締まった手足、目元にはシワが刻まれ顎には髭を生やしたちょっと胡散臭いタレ目でロン毛のおっさんがそこにいた。
最初の一言からやたら渋くていい声すると思ったんだよ……背中の羽似合わねえよ……
「なんで妖精がおっさんなんだよ!? チェンジ!」
『あぁ? なんでいきなりおっさんフェアリーが否定されなきゃいけないんだ! まさかお前、妖精がみんな若くて綺麗な可愛い子ちゃんばっかりだと思ってんのか!? 妖精だって歳はとるんだよ!』
噛みつかんばかりの勢いのおっさんは確かに正論を述べていると思うんだけど、
「異世界召喚されて世界を救えとか言われるの、おっさん相手じゃ正直やる気出ねえんだけど」
『お、おっさん差別だ……お前だっていつかはおっさんになるんだぞ!』
だってこういうので出てくるのって、普通可愛らしい女の子だし。
『可愛い女の子か……営業の妖精は今ちょっといなくてな……』
「いま営業っつった!?」
なんだその急速にロマンが失われる響きは!
『まあとりあえずそこの選ばれし者しか抜けない聖剣引っこ抜いてそっちの聖巨人に乗り込んで内部の台座に剣を挿せ。それで聖巨人動かせるから』
「そんなさらっとした説明で巨大ロボに乗せられるのか、俺は……」
せっかく心ときめく要素はある程度揃っているのに、いろんな意味で台無しだ。
それでも言われた通りに剣の柄に手をかけるとそれはあっさりと引き抜かれ、本当に選ばれし者ってやつだったのかとちょっぴり感動をおぼえる。
「抜けた……!」
『お、マジで抜けた。すげえ』
ちょっと待てなんだそのマジで抜けたって!
「……で、どうやってあの巨大ロボ……聖巨人とやらに乗ればいいんだよ?」
『ああ、それはなー』
ロボットに乗り込む場所といえば、見るからにそれらしく開いた胸部のそれだろうが、ハシゴとかそれらしいものが見当たらなくて届かない。
『導きの妖精に選ばれた者が聖巨人の手でも足でもどっかノックすれば。おーい乗せろよーって』
「そんなんでいいのか!?」
とりあえず足をコンコンと叩くと、ロボの胸部から発せられた不思議な光に包まれて俺たちはコックピット内部らしき場所にワープした。
中は真っ暗で、妖精が言っていた台座らしき部分だけがうっすらと輝いている。
「うお、すげえ……で、どうやって動かすんだ? 俺、原付の免許くらいしかないけど」
『あん? んなもん気合いよ気合い。なんかそれっぽく叫びゃなんとかなる』
「いや適当かよ!」
動く気配のない聖巨人の中で俺達の漫才は続く。
「……剣挿したのに反応ねーけど?」
『ああ思い出した! 確かその後この巨人の名前を呼ぶと起動するんだ!』
「それめっちゃ大事なこと! つーか名前って、聖巨人じゃないのかよ!」
『えー……忘れちった☆』
てへぺろすんなおっさん、可愛……いや可愛くねーぞ。
「うぐぐ……動けよコンチキショー!」
《キーワード確認。起動します》
「えっ」
途端に内部が明るくなり、前後左右ぐるりと囲むように外の景色が映る。
モニターにはいくつもの文字が流れていき、その中に俺でも読めるものがひとつ。
――――“魂血機将”……こんちきしょう、と。
『異世界の文字か? これがこいつの名前だったみたいだな』
「う、うそお……」
そんなんで動いていいのか、魂血機将。
『という訳で晴れてお前は俺の主だな』
「晴れねえよなんだよこれ……」
『となると、やはり“ご主人様”と呼ぶべきか……』
「結構です!」
勘弁してくれ、おっさんフェアリーはべらせてご主人様と呼ばれる身にもなってみろ!
『……ダメ?』
「小首傾げ上目遣いすんなおっさん。それにご主人様とかそもそも性に合わねーんだよ」
『んじゃ相棒だ。よろしくな相棒!』
「フランクかよ! もういいよそれで!」
こうして異世界を救うため召喚されたらしい俺と、導きの妖精を自称する羽を生やした小さいおっさんの冒険が幕を開けた。
なんだかんだ、最終的にはいいコンビになるんだが……今の俺は、そんなこと想像もしないのだった。
と、とりあえず、最近よく見る異世界転生とかじゃないよな……俺、まだ生きてるっぽいし。
『選ばれし異世界人よ……この世界を、助けて……』
うお、お決まりのなんか来た!
異世界に戸惑う俺の前に現れたのは、てのひらにちょこんと乗れるくらいの小さな、背中に羽を生やした人間……いわゆる、妖精ってやつなんだろうけど……
『……なんだその目は。異世界人には妖精は刺激が強すぎるか?』
いや、絶句するわ。
硬そうな胸板、引き締まった手足、目元にはシワが刻まれ顎には髭を生やしたちょっと胡散臭いタレ目でロン毛のおっさんがそこにいた。
最初の一言からやたら渋くていい声すると思ったんだよ……背中の羽似合わねえよ……
「なんで妖精がおっさんなんだよ!? チェンジ!」
『あぁ? なんでいきなりおっさんフェアリーが否定されなきゃいけないんだ! まさかお前、妖精がみんな若くて綺麗な可愛い子ちゃんばっかりだと思ってんのか!? 妖精だって歳はとるんだよ!』
噛みつかんばかりの勢いのおっさんは確かに正論を述べていると思うんだけど、
「異世界召喚されて世界を救えとか言われるの、おっさん相手じゃ正直やる気出ねえんだけど」
『お、おっさん差別だ……お前だっていつかはおっさんになるんだぞ!』
だってこういうので出てくるのって、普通可愛らしい女の子だし。
『可愛い女の子か……営業の妖精は今ちょっといなくてな……』
「いま営業っつった!?」
なんだその急速にロマンが失われる響きは!
『まあとりあえずそこの選ばれし者しか抜けない聖剣引っこ抜いてそっちの聖巨人に乗り込んで内部の台座に剣を挿せ。それで聖巨人動かせるから』
「そんなさらっとした説明で巨大ロボに乗せられるのか、俺は……」
せっかく心ときめく要素はある程度揃っているのに、いろんな意味で台無しだ。
それでも言われた通りに剣の柄に手をかけるとそれはあっさりと引き抜かれ、本当に選ばれし者ってやつだったのかとちょっぴり感動をおぼえる。
「抜けた……!」
『お、マジで抜けた。すげえ』
ちょっと待てなんだそのマジで抜けたって!
「……で、どうやってあの巨大ロボ……聖巨人とやらに乗ればいいんだよ?」
『ああ、それはなー』
ロボットに乗り込む場所といえば、見るからにそれらしく開いた胸部のそれだろうが、ハシゴとかそれらしいものが見当たらなくて届かない。
『導きの妖精に選ばれた者が聖巨人の手でも足でもどっかノックすれば。おーい乗せろよーって』
「そんなんでいいのか!?」
とりあえず足をコンコンと叩くと、ロボの胸部から発せられた不思議な光に包まれて俺たちはコックピット内部らしき場所にワープした。
中は真っ暗で、妖精が言っていた台座らしき部分だけがうっすらと輝いている。
「うお、すげえ……で、どうやって動かすんだ? 俺、原付の免許くらいしかないけど」
『あん? んなもん気合いよ気合い。なんかそれっぽく叫びゃなんとかなる』
「いや適当かよ!」
動く気配のない聖巨人の中で俺達の漫才は続く。
「……剣挿したのに反応ねーけど?」
『ああ思い出した! 確かその後この巨人の名前を呼ぶと起動するんだ!』
「それめっちゃ大事なこと! つーか名前って、聖巨人じゃないのかよ!」
『えー……忘れちった☆』
てへぺろすんなおっさん、可愛……いや可愛くねーぞ。
「うぐぐ……動けよコンチキショー!」
《キーワード確認。起動します》
「えっ」
途端に内部が明るくなり、前後左右ぐるりと囲むように外の景色が映る。
モニターにはいくつもの文字が流れていき、その中に俺でも読めるものがひとつ。
――――“魂血機将”……こんちきしょう、と。
『異世界の文字か? これがこいつの名前だったみたいだな』
「う、うそお……」
そんなんで動いていいのか、魂血機将。
『という訳で晴れてお前は俺の主だな』
「晴れねえよなんだよこれ……」
『となると、やはり“ご主人様”と呼ぶべきか……』
「結構です!」
勘弁してくれ、おっさんフェアリーはべらせてご主人様と呼ばれる身にもなってみろ!
『……ダメ?』
「小首傾げ上目遣いすんなおっさん。それにご主人様とかそもそも性に合わねーんだよ」
『んじゃ相棒だ。よろしくな相棒!』
「フランクかよ! もういいよそれで!」
こうして異世界を救うため召喚されたらしい俺と、導きの妖精を自称する羽を生やした小さいおっさんの冒険が幕を開けた。
なんだかんだ、最終的にはいいコンビになるんだが……今の俺は、そんなこと想像もしないのだった。
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