そうだ、温泉に行こう。

 ドタバタしつつも夕食を挟んでようやくひと息。
 うまい食事に温泉、あとは酒があれば最高なのにな、なんて言っても残念ながら今の俺は未成年だ。

「あー、食った食った。胃もたれしないって最高だな。いくらでも食えちまう」
「発言がおっさん過ぎるぞ。あとその行儀の悪い足をなんとかしろ」
「いやーん」
「いやーんではない! ええい一国の姫があぐらをかくな!」

 部屋の割り振りは俺とマオルーグ、残りのメンバーでそれぞれ分かれている。
 あっちでキラキラに挟まれたスカルグ、大丈夫かなあ……

「……感慨深いな」

 ぼそ、とマオルーグが呟いた。
 俯くと、紅の瞳が伏し目がちになる。

「魔物のメフィオがチサナ村に受け入れられて、これから多くの人と触れ合うだろう温泉宿で働いてること、か?」
「あの娘は完璧には化けられぬ。隠しきれないツノと尻尾……明らかにヒトではないと、誰の目からもわかるだろう」
「でも、今じゃすっかりチサナ村の守り神だ。それに……いい子だ」

 その気になれば村ひとつ全滅させるくらい容易いだろう力をもって、彼女がしたことといえば温泉を掘り当てたことだ。
 それ以前から村人と彼女の関係は良好で、持ちつ持たれつで和やかそのもの。

「メフィオも村の人達もいろいろ覚悟の上だろうけど、大丈夫だよ、きっと」
「まったく、貴様は楽天的過ぎるな」
「心配は魔王様がしてくれるからな?」

 魔王様ことマオルーグは、こう見えてなかなか面倒見が良い。
 前世の部下だったスカルグや、護衛仲間のファイ、それに俺に対してもよくそんな顔を垣間見せる。

「……別に、心配などしていない」

 こうやって、ちょっとつつくとすぐ照れ隠ししちまうけど、な。

「いやあ、しかし楽しかったなあ! 料理も美味かったし温泉は極楽だったし!」
「む……」
「ホント、感慨深いよ」

 先程聞いたばかりの台詞をこちらも呟くと、何がだ、という顔をされる。

「だって毎日のように『また来よう』『またやろう』が増えていくんだぜ? こんなこと、前世じゃ考えられなかった。全くなかったとは言わないけどさ」
「フ、確かにな」
「だから、また来ようぜ。今度はファイも連れてな」
「あの変人王子も来たがりそうだな」
「ホーリスか。ははっ、そうだな」

 兄とはまた違う方向で好奇心と行動力の塊だから、きっとそうなるだろう。
 ファイはスカルグと一緒に、キャラの濃い王子たちのお守りに追われそうだ。

 みんなで来られるのは、卓球台や塀を新しくしてからになりそうだけど……

 いつか来る『また』を思い浮かべ、俺たちは互いに笑い合った。
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