そうだ、温泉に行こう。

「わぁー! すっげぇー!」

 一国の姫が語彙力を捨てた雑な感想を口にしてしまうのも仕方のないことだろう。
 着替えを済ませ、メフィオに案内された遊技場では、カードゲームのテーブルに卓球台、ダーツ、輪投げなどなど……みんなでわいわい遊べそうなものがいっぱいあった。

「温泉の前に軽く汗を流すのもいいね!」
「確かに。面白そうだなぁ」

 かよわい姫となった今では剣の試合ではまだまだ勝てそうにないが、ゲームだったら……どうだろう、それでも体を使うものは分が悪い気もする。
 とはいえキラキラ王子の視線は卓球台に釘付けになっていた。今にも「誰か勝負しないかい?」と言い出しそうだ。

「誰か、勝負しないかい?」

 ほら来た。

「私は体を動かすのは不得手なので観戦側に回らせていただきますね……面白そうですし」

 たおやか王子の方はそう微笑んで引き下がる。最後の一言、それが本音だろう。

「となると残りは……」
「スカルグは無理だろ。隣国の王子様相手になんて」
「えぇー」

 えぇーじゃないよ、そんな眩しいイケメンが。
 さすがに国も身分も違うラグード相手に本気なんか出せる訳がない真面目な騎士隊長は、案の定指名を免れてほっと胸を撫で下ろしていた。

「ならば我か貴様しかいないということになるぞ」
「んじゃマオたん、行け。実況側の方が面白そ……というか、俺とじゃ身体能力に差がありすぎる」
「オイどっちが本音だ貴様」

 そんなの両方に決まってるだろ。あとこの浴衣って服での動きに慣れてないのもある。

「残念だけど……君は手加減されて喜ぶタイプじゃなさそうだもんね、ユーシア」
「よくおわかりで。いつかわたくしがもっと強くなったらお相手願いますわ、王子」
「君もなかなか負けず嫌いと見た。いいよ、その時が楽しみだ」

 ふふ、と笑い合う王子と姫。ラグードもだいぶ俺という人間がわかってきたようだ。

……こんな平和的な戦いだったら、いつでも大歓迎なんだがな。

「よし、じゃあ勝負だよマオルーグ!」
「やれやれ……お手柔らかに、ラグード王子」

 ラグードとマオルーグ、二人がラケットを手に卓球台を挟んで向き合った。
 白く小さな球を持ち、真っ直ぐに相手を見つめるラグードが燃えて……あれ、なんかホントに炎が見えるような?

「いや炎だこれ!?」
「ラグード王子、もしや卓球のルールを……?」
「そういえばよく知らなかったね! でも球をラケットで打つんだよね?」

 いやその流れと今周りに発生してる炎は関係なくありませんか!?

「いくよ……必殺・クリムゾンスマーッシュ!」
「どわぁっ!」

 どかーん。

 お得意の火炎魔法を纏わせた魔球。ラグード渾身の一撃……いや一打は、卓球台を無惨に破壊してしまった。

 ついでに球は炎に耐え切れず消滅……誰がここまでやれと言った!

「ありゃ、これはノーゲームでしょうかねえ」
『だっ、大丈夫ですか?』

 宿側の被害も大きいのに素直に心配するメフィオ、いい子だな。
 俺はふたりの無事を確認すると、ラグードに歩み寄る。

「こら、ラグード! ルールがわからないならちゃんと確認しないと危ないだろ!」
「す、すまない……メフィオも、ごめん」

 しゅんと垂れた尻尾が見えるくらい落ち込んだラグードは、メフィオに向き直りその手を取る。

「壊してしまった卓球台と球はうちで手配するからね。ドラゴンが踏んでも大丈夫なくらい頑丈なものを用意するよ」
『ラグードさま……』

 それ、伝説の鉱石とか使ってない?

 なにはともあれ、ゲームはこれでお開きとなるのだった。
3/5ページ
スキ