さまよう影の正体は?
マオルーグの部屋の前を嗅ぎ回る怪しげな亡霊。
知れば知るほど、そいつはどう考えても……
「ダークマージ、だよなあ?」
「正直我もあやつ以外にこんなのがいると思いたくない」
いたとしたら恐らくファンクラブ会員二号だな。
『ダークマージ……ダークマージ……はて、懐かしい響きのような……』
「どうしてこんな人間の国の城の中にいるのだ? それこそ魔王城に行けば良いだろう」
『あそこはもう廃墟ですよ、魔王様。当時の面影もほとんど残っておりません』
あの頃から数百年、カナイ村がリンネ国に発展したように、主を失って久しい城が見る影もなくなるのは仕方のないことだ。
それでも……ふと目に入ったマオルーグの浮かない表情を見るに、俺とそう変わらない感情を抱いたことだろう。
「……なあマオ、ここでこうして会ったのもなにかの縁じゃねーか?」
「ああ……我もそう思う」
マオルーグは一旦目を閉じ、そして再び静かに開くと息をひとつ吸い込んだ。
「……ダークマージ」
『はいっ!?』
「その……はるばるよく来てくれた。我も嬉し……」
だが、その優しい言葉はそこまでで。
『あああああ魔王様が直々に私のことを! 名を! ありがたきじあわぜぇぇぇぇぇもうこの御声を一生忘れませぬぅぅぅぅぅぅ!』
「えっおい」
『ああ……何やら満たされたので私は体に戻りますね』
「は? 体って貴様……」
『ありがとうございますそれではさようなら!』
怒涛の勢いで感激を表現すると、ダークマージらしき影は去っていった。
「……行ってしまった」
「ま、まあ、これでまた幽霊騒ぎが解決した訳だな!」
「釈然としないのだが……結局何だったのだ」
「うーん……生霊、みたいな?」
その釈然としない感溢れる背中を目の前の部屋へと押し込み、もう寝ようぜと促す。
気が抜けると同時に溢れた欠伸をかみ殺しながら、俺も部屋へと戻っていった。
そして翌朝。
「ふあぁー」
「おや、ユーシア姫。寝不足ですか?」
「ひえっ、マージェス王子! お、おほほ、お恥ずかしいですわ!」
大あくびをかましていたところを見られ、慌てて背筋をのばす可憐な姫と評判の俺。
そしてくすくす笑っているのは、そんな俺よりよっぽどたおやかで万人を蕩かす美人のマージェス王子だ。
(……けど、昨夜のアレは……)
そう、昨夜現れた“影”は恐らくこのマージェス王子の前世であるダークマージ……のはずなのだ。
王子自身も、普段こそ穏やかだが魔王というワードには過剰反応して前世の顔を覗かせることがある。
「あの……マージェス王子」
「はい?」
「ここ最近……昨夜、とか……何か変わったことはありませんでした?」
もしやと思いながらそっと尋ねてみる。
するとマージェス王子はポンと手を打ち、
「ああ、そういえば……昨夜はなんだかとても幸せな夢を見た気がします。とても懐かしいような、満ち足りたような……」
誰もが見惚れるような笑顔で、そう言った。
が……
「それにすごくいいニオイがしたような……ふふふ、魔王様スメル……」
「……」
うっとりとニヤける口の端からヨダレが零れそうになるのを素早く拭う姿に、やっぱりダークマージじゃねえか、と喉元まで出かかったツッコミを飲み込む俺であった。
しんみり終わらせてくれよ、もう!
知れば知るほど、そいつはどう考えても……
「ダークマージ、だよなあ?」
「正直我もあやつ以外にこんなのがいると思いたくない」
いたとしたら恐らくファンクラブ会員二号だな。
『ダークマージ……ダークマージ……はて、懐かしい響きのような……』
「どうしてこんな人間の国の城の中にいるのだ? それこそ魔王城に行けば良いだろう」
『あそこはもう廃墟ですよ、魔王様。当時の面影もほとんど残っておりません』
あの頃から数百年、カナイ村がリンネ国に発展したように、主を失って久しい城が見る影もなくなるのは仕方のないことだ。
それでも……ふと目に入ったマオルーグの浮かない表情を見るに、俺とそう変わらない感情を抱いたことだろう。
「……なあマオ、ここでこうして会ったのもなにかの縁じゃねーか?」
「ああ……我もそう思う」
マオルーグは一旦目を閉じ、そして再び静かに開くと息をひとつ吸い込んだ。
「……ダークマージ」
『はいっ!?』
「その……はるばるよく来てくれた。我も嬉し……」
だが、その優しい言葉はそこまでで。
『あああああ魔王様が直々に私のことを! 名を! ありがたきじあわぜぇぇぇぇぇもうこの御声を一生忘れませぬぅぅぅぅぅぅ!』
「えっおい」
『ああ……何やら満たされたので私は体に戻りますね』
「は? 体って貴様……」
『ありがとうございますそれではさようなら!』
怒涛の勢いで感激を表現すると、ダークマージらしき影は去っていった。
「……行ってしまった」
「ま、まあ、これでまた幽霊騒ぎが解決した訳だな!」
「釈然としないのだが……結局何だったのだ」
「うーん……生霊、みたいな?」
その釈然としない感溢れる背中を目の前の部屋へと押し込み、もう寝ようぜと促す。
気が抜けると同時に溢れた欠伸をかみ殺しながら、俺も部屋へと戻っていった。
そして翌朝。
「ふあぁー」
「おや、ユーシア姫。寝不足ですか?」
「ひえっ、マージェス王子! お、おほほ、お恥ずかしいですわ!」
大あくびをかましていたところを見られ、慌てて背筋をのばす可憐な姫と評判の俺。
そしてくすくす笑っているのは、そんな俺よりよっぽどたおやかで万人を蕩かす美人のマージェス王子だ。
(……けど、昨夜のアレは……)
そう、昨夜現れた“影”は恐らくこのマージェス王子の前世であるダークマージ……のはずなのだ。
王子自身も、普段こそ穏やかだが魔王というワードには過剰反応して前世の顔を覗かせることがある。
「あの……マージェス王子」
「はい?」
「ここ最近……昨夜、とか……何か変わったことはありませんでした?」
もしやと思いながらそっと尋ねてみる。
するとマージェス王子はポンと手を打ち、
「ああ、そういえば……昨夜はなんだかとても幸せな夢を見た気がします。とても懐かしいような、満ち足りたような……」
誰もが見惚れるような笑顔で、そう言った。
が……
「それにすごくいいニオイがしたような……ふふふ、魔王様スメル……」
「……」
うっとりとニヤける口の端からヨダレが零れそうになるのを素早く拭う姿に、やっぱりダークマージじゃねえか、と喉元まで出かかったツッコミを飲み込む俺であった。
しんみり終わらせてくれよ、もう!