さまよう影の正体は?

「おいなんだあれめっちゃお前のこと呼んでるぞ」
「わ、わからん……というか本能的に近寄りたくない」

 何かを探すように手を動かし這い回る、シーツを被ったような白い影。
 思い当たるのは、やっぱりあの魔王命のダークマージなんだが……というか、前回の幽霊騒ぎの時にそうやって頭からシーツを被って登場した彼の生まれ変わりの王子様がいたような。

 けれども目の前の“それ”が生身の人間じゃないことだけは、俺たちにもハッキリとわかっていた。

「よく見れば足どころか下半身がないな……」
「ファイが見たら卒倒するくらいにはハッキリとお化けだな……」

 どうしたものか、様子を見ていた俺たちだったが……

『ああ、魔王様、いずこに……?』

 ふいに影が言葉を発し、俺たちはさらにその先を見守る。

(我の忠実な部下、なのか……?)

 こんな姿の者はいなかったし、ゴースト系の魔物とも少し違う。
 あーでもないこーでもないとマオルーグが記憶を手繰り寄せていると、

『魔王様のニオイは確かにここからするはずなのに……! ああ魔王様……クンカクンカスーハー! ンッフゥー確かにここだ……!』
「ひっ……ひとの部屋の前を嗅ぎ回るな! 深呼吸するな!」

 いや、うん、反射で言いたくもなるわなこれ。

『ど、どなたですか貴方は……私が見えるのですか!?』
「むっ、しまった……関わってしまった」
「仕方ないなマオたん」

 全力で反応されたら気づかれない訳がなく、影に問いかけられる。

「貴様こそ誰だ?」
『人間に答えるような名は……いえ、貴方は……』
「む?」
『このかぐわしくも高貴なる魔王様スメル! もしや貴方は魔王様ァ!?』
「や、やめろその言い方! 我が臭うみたいではないか!」

 うん、すっごく匂いそう。なんだよ魔王スメルって。
 そう思いながら俺はちょいちょいと手招きをしてマオルーグに小声で話しかけた。

「マオたん、マオたん」
「なんだ」
「ここは話を合わせてみたらどうだ? 満足して帰ってくれるかもよ」
「……逆に棲み着かれる可能性もあるがな」

 そこはまあ……否定しないけど。

「否定しろ貴様ァ!」
「口に出さなかったのになんでバレたし!」

 とかなんとかちょっとした漫才を繰り広げていたら、魔王命の白い影からじとりとした視線らしきものを感じた。

『魔王様と共にいるそちらの娘……』
「へ、俺?」
『貴方、嫌なニオイがしますね……』
「!」

 じりじりと後ずさる影。
 やめろそのマオたんより臭そうな反応!
 マオたんが魔王スメルならさしずめ俺は……

『全身から漂う、隠しきれないおっさんスメルが!』
「そこは勇者じゃないのかよ!」

 後ろでマオルーグが腹を抱えて大笑いしている。

 うん、後でしばくわコイツ。
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