さまよう影の正体は?
ホーリスの話ではこうだ。
――ちょうど日付が変わる頃、城内に鳴り響く鐘の音に混じって声が聴こえてきた。
『魔王……魔王……』と。
この世の全てを恨むような恐ろしい声に立ち尽くし、正体を確かめることができないまま、それはすぐに消えていった……――
「いや、おかしいだろう。魔王が自分で魔王と言うか?」
「鳴き声とか? まおーまおーって」
「嫌だわそんな魔王!」
多くの者が寝静まった夜の城内、もちろん抑えた控えめな声で。
実在した魔王で想像して吹き出していたら察したらしいマオルーグに鋭く睨まれ、ぴゃっと鳴く。
「ま、まあまあ……魔王じゃないとしたらどうして魔王って言ってたのかが気になるとこだよな?」
一応今の歴史も確認してみたけど、俺らの後に勇者と魔王が現れたらしい記述はなかった。
魔王を呼んでいるんだとしたら、真っ先に浮かぶのは執念深い魔王推し過激派の魔法使い、ダークマージあたりだろうけど……彼もまた、生まれ変わった先を知っているから亡霊にはなってないんじゃないかなと考えている。
「お前の部下じゃないなら、逆にお前を恨む人間とか?」
「……魔王であった以上、否定できん可能性だな」
さすがにそこは受け止めているのか、マオルーグの横顔は真剣だ。
「まあ……それを言ったら俺だって、どれだけの魔物に恨まれているかだけどな」
「勇者……」
魔王は人間界の悪者だったろうが、立場をひっくり返せば勇者だって変わらないだろう。
などと思考がシリアスに傾きかけたところで、日付変更を告げる鐘が鳴る。
「やーん、お肌に良くない時間だぜ」
「貴様自分から首を突っ込んでおいて何を今更……」
しかし、俺たちの言葉はそこで止められた。
『魔王……ま……』
「「!」」
聴こえた。今、確かに。
互いに顔を見合わせ、それが幻聴ではないと確かめると、声が聴こえた方へ同時に駆け出す。
(まさか本当にいるのかよ、亡霊……?)
興味半分、危機感とあとはちょっぴりの恐怖もありつつ、向かったのはマオルーグの部屋の前。
「む、どうしてここに……?」
「あっ、なんかいるぞ!」
そこには薄ぼんやりと白い人影が佇んでいた。
ウワサの亡霊か、それとも……マオルーグの眼がいつにも増して険しくなり、腰に携えた剣の柄に手がのびる。
『……さま』
「え?」
『魔王様魔王様魔王様魔王様魔王様魔王様魔王様魔王様魔王様魔王様魔』
「「――――ッ!」」
ぎゃーーーーーーーー!
ブツブツと魔王を呼びながら部屋の前をカサカサ這う白い影……!
こ、これはファイじゃなくても怖い!
思わず悲鳴をあげそうになった己の口を必死に押さえ、どうにか城中の人間を起こしてしまうことだけは回避した俺とマオルーグ。
えっ、なにこれ怖い。
――ちょうど日付が変わる頃、城内に鳴り響く鐘の音に混じって声が聴こえてきた。
『魔王……魔王……』と。
この世の全てを恨むような恐ろしい声に立ち尽くし、正体を確かめることができないまま、それはすぐに消えていった……――
「いや、おかしいだろう。魔王が自分で魔王と言うか?」
「鳴き声とか? まおーまおーって」
「嫌だわそんな魔王!」
多くの者が寝静まった夜の城内、もちろん抑えた控えめな声で。
実在した魔王で想像して吹き出していたら察したらしいマオルーグに鋭く睨まれ、ぴゃっと鳴く。
「ま、まあまあ……魔王じゃないとしたらどうして魔王って言ってたのかが気になるとこだよな?」
一応今の歴史も確認してみたけど、俺らの後に勇者と魔王が現れたらしい記述はなかった。
魔王を呼んでいるんだとしたら、真っ先に浮かぶのは執念深い魔王推し過激派の魔法使い、ダークマージあたりだろうけど……彼もまた、生まれ変わった先を知っているから亡霊にはなってないんじゃないかなと考えている。
「お前の部下じゃないなら、逆にお前を恨む人間とか?」
「……魔王であった以上、否定できん可能性だな」
さすがにそこは受け止めているのか、マオルーグの横顔は真剣だ。
「まあ……それを言ったら俺だって、どれだけの魔物に恨まれているかだけどな」
「勇者……」
魔王は人間界の悪者だったろうが、立場をひっくり返せば勇者だって変わらないだろう。
などと思考がシリアスに傾きかけたところで、日付変更を告げる鐘が鳴る。
「やーん、お肌に良くない時間だぜ」
「貴様自分から首を突っ込んでおいて何を今更……」
しかし、俺たちの言葉はそこで止められた。
『魔王……ま……』
「「!」」
聴こえた。今、確かに。
互いに顔を見合わせ、それが幻聴ではないと確かめると、声が聴こえた方へ同時に駆け出す。
(まさか本当にいるのかよ、亡霊……?)
興味半分、危機感とあとはちょっぴりの恐怖もありつつ、向かったのはマオルーグの部屋の前。
「む、どうしてここに……?」
「あっ、なんかいるぞ!」
そこには薄ぼんやりと白い人影が佇んでいた。
ウワサの亡霊か、それとも……マオルーグの眼がいつにも増して険しくなり、腰に携えた剣の柄に手がのびる。
『……さま』
「え?」
『魔王様魔王様魔王様魔王様魔王様魔王様魔王様魔王様魔王様魔王様魔』
「「――――ッ!」」
ぎゃーーーーーーーー!
ブツブツと魔王を呼びながら部屋の前をカサカサ這う白い影……!
こ、これはファイじゃなくても怖い!
思わず悲鳴をあげそうになった己の口を必死に押さえ、どうにか城中の人間を起こしてしまうことだけは回避した俺とマオルーグ。
えっ、なにこれ怖い。