さまよう影の正体は?

 暑い日が続くと、ついつい人は涼を求めてしまうものだ。
 それは冷たい食べ物や飲み物だったり、心地の良い風や水だったり……

「……このリンネの城で働くメイドから聞いた話なんだが……“出る”らしい」

 背筋の凍る、怪談話だったり。

 リンネの城の庭園に響いた低く地を這うおどろおどろしい声は、すっかりリンネに馴染んだカノドの第四王子、ホーリスのもの。
 ご丁寧にわざわざ聖魔法で美形な顔を下から照らし、不気味さと迫力を演出している。

「それで俺が怖がるとでも?」
「なんだ、こういうのはあんまり興味ないのか?」

 ごあいにく様、怪談ごときに黄色い悲鳴をあげる乙女じゃないんだよ。
 オマケにゴースト系の魔物とも、遠い昔に戦った経験がある……見た目は花の十七歳・美少女プリンセスのユーシア姫だがその中身はおっさん勇者だからな!

「猫かぶり姫がどんな反応を示すかと思ったんだが……つまらん」
「あーらご期待にそえずごめんあそばせー?」

 とまあ、そんなおふざけはさておき。

「……気になるな、その噂」

 いきなりぬるっと横から現れたのは仏頂面な俺の護衛。

「本当に幽霊とかならともかく、不審者だったらまずいだろう」
「なんか前にもあったぞ、こんな流れ……でも、確かにな」

 以前城下町で聞いた幽霊騒ぎは、仕事中毒の某騎士が寝ぼけて徘徊していたというオチだった。
 幽霊にしろ人間の仕業にしろ、噂になる程のものなら解決しておいた方がいいんじゃないか、と。

「それでホーリス、城に出るっていうのはどういう?」
「なんだよ、仕事モードかよ……」

 本格的につまらなさそうな顔をして、テーブルに頬杖をつくホーリス。
 まあまあ、美形はふてくされてもさまになりますこと。

「……まあいいか。猫かぶり姫がお化けの正体を暴く、っていうのもなかなか面白そうだからな」
「一応言っとくけど、夜のリンネ城は外部の者立入禁止だからな?」
「ちっ」

 お行儀の悪い舌打ちをした王子様は気を取り直すと、再び口を開く。

「……魔王」
「「は?」」
「だから、出るんだよ。勇者に倒された魔王の亡霊が」

 え、魔王って……亡霊ってお前……?

 ちらりと隣を見上げると、護衛……マオルーグが紅の目を見開いて固まっている。

(魔王、ここにいますけど?)

 何を隠そうこのマオルーグこそが俺の前世の宿敵、魔王なのだから。
 などと説明する訳にもいかず、俺たちは終始なんともいえない空気のままホーリスの話を聞いていた。
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