図書館の隅で

 後日、俺はまた図書館で勉強のための本を探していた。
 例の『本当はカッコ悪い勇者伝説』はちゃんと読了し、数日前に返却済み……だったんだけど、

「あれ、あの本どこにもないぞ?」

 ついでに元の本棚に来てみたが、どうやらすぐに別の誰かが借りていったらしい。
 マージェス王子の話だと不人気そうな本だと思ったんだけど、物好きもいるもんだなあ。

(あの本、結局懐かしくなってするする読んじまった)

 他人にとってはどうでもいいような内容で、俺にとっては恥ずかしいことばかり綴られている本だけど、読んでみると不思議と笑みがこぼれるんだ。

 ああ、こんなことあったな、って。

(アイツももしかしたら俺達との旅を楽しんでいてくれたのかなって)

 同行した期間は決して長いと言えるものではなかったのに、俺達の旅の些細な出来事はひとつひとつ、事細かに記録されていて。

 そして、本の最後にはこんな一文が添えられていた。

――私が見てきたのは、勇者という男のほんの一部である。その旅路を最後まで共にすることはできなかったが……

 愛すべき彼らの行く先を、幸運の光が照らさんことを……心から、祈っている――


……そんなこと、別れ際には言いもしなかったくせにな。


 だから、アイツの生まれ変わりであるホーリスと出会えたことは本当は素直に嬉しい。

 リンネに留まるって言われたのは、ちょっと複雑ではあったけど……

「また一段と賑やかになりそうだな」

 悪くはない、と思う。



……ちなみに。

 後にマオルーグの部屋で読みかけの『本当はカッコ悪い勇者伝説』を発見してしまい、思わず大暴れしてしまったりもしたんだが……

 まあ、それはそれ。
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