図書館の隅で

 初対面の旅人に即ボロを出しそうになった俺は、マオルーグに抱えられてその場をダッシュで去った。
 一応可憐な姫で通っておりますからね、わたくし!

「……おい勇者、さっきの反応はもしや」
「ああそうだよ。ホーリスはあの『本当はカッコ悪い勇者伝説』の著者だった聖職者の生まれ変わりだ」

 話題に出したばかりのタイミングで遭遇すりゃ、オーバーリアクションにもなるさ。

「しばらく外に出るの控えようかなあ」
「貴様がそんな事を言うと雨どころか雪でも降りそうだ」
「お前、面白がってるだろ」
「我には関係のない人間のようだからな」

 くそう、対岸からにやにや眺めやがって!

「いやいや、街から街、国から国をふらりと旅する者がほんの一時訪れた先でたまたま……なかなかの縁だと思ってな」
「それ盛大なブーメランだからな、元旅の傭兵さんよぉ」
「ぬっ」

 まあ縁が強いのは認めるけどさ。

「それで、その男と旅をしてどうだったのだ?」
「どうって……なんか、最初こそ私は神に仕えておりますーって感じでぶりっこしてたけど、割とすぐ打ち解けて砕けるとだいぶアレな奴だったな」
「アレ……?」

 不明瞭な言葉を使うな、とマオルーグが眉間にシワを寄せる。
 仕方がないので前世の記憶を手繰り寄せて、言葉にしようと頭の中で整理した。

「……なんつーか、治癒と聖魔法が使えるのは確かに聖職者っぽいんだけど、性格があんまそれっぽくないというか」
「ふむ」
「魔物に襲われたら祈るでもなく即魔法ぶっ放して自力でなんとかして『祈ったところで神が直接助けてくれる訳じゃない』なんてぬかすような」
「それは本当に聖職者なのか……?」

 思い返すと怪しい場面は多かったと思う。
 まあ興味本位でついて来る以上、ある程度は自分の身も守れるつもりだったんだろうけど……そうでなかったとしたら守ってもらう気満々ということで、それはそれでとんでもない奴ではある。

「今まで会った生まれ変わりの奴らがどこかしら面影を残していることを考えたら、ホーリスもそういう感じなのかなーなんて」
「だから避けると……貴様はその男が嫌いだったのか?」
「そ、そういう訳じゃねーけど」

 むしろ好きだし別れも惜しんだし、仲良くなれたと思うけど!

「あの本のことを考えたら、旅先で俺のこと変な風に言いふらさないとも限らないっつーか……」
「たかが素性のわからぬ旅の人間がひとり、妙な噂を流したところで信じて貰えると思うか?」

 あ、それもそうか。

「せっかくの感動の再会だ。どうせしばしの滞在だろうし昔を懐かしむのも悪くないのではないか?」

 マオルーグの声音には面白がってるの半分と、同じ立場だからか……本心からそう言っているようにも感じた。
 そうだよな、せっかくまた縁が繋がったんだもんな……

「という訳でしばらくはファイではなく我が貴様の護衛につく。ファイも休めてちょうどいいだろう」
「やっぱ面白がってるだろてめー!」

 途端にまたニヤけ顔になったマオルーグに、一時でもしんみりした心を返せと俺は握り拳を作った。
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