図書館の隅で

 城に戻った俺は自室のベッドに寝転んで、借りてきた本をひろげた。
 美化されまくった勇者伝説もあちこち痒くなるから苦手だけど、カッコ悪いなんてデカデカと書かれちゃ見てやろうじゃねえかという気にもなる。

「勇者、いるか……む、貴様はまたはしたない格好を」
「やーん、なんつータイミングで来るんだよう!」

 突然の来訪者に即くつろぎモードでバタつかせていた足をスカートの中に隠す。
 ノックぐらいしろって言っただろ、マオルーグ!

「今日は勉強は休みのはずだが……まさか貴様が読書をしているとはな」
「なんとなく図書館に足が向いてな。すげえタイトルの本見つけた」

 俺は『本当はカッコ悪い勇者伝説』の表紙をマオルーグに掲げて見せた。

「む……興味深い題だな」
「珍しいだろ。どんなもんかなーと思ってな。もしあることないことデタラメ書いてたら……」

 と、適当なページを開いてみる。

「えーと……『勇者、宿屋で風呂上がりにパンツ一丁でうろつく。聖剣もないとただのおっさん感がすごい』……」
「パンツ一丁……!?」

 いやそこ反応すんなよ赤くなるなよ!

「……パンツ一丁は前世の話でさすがに可憐な少女になった今はちゃんと服着てるぞ?」
「ち、違う! 我はよこしまな想像などしてはおらぬ!」

 そんなことよりも、と俺はページをめくる。

「ウソだろ……魔物と戦うのに剣とホウキを間違えちまって宿屋に聖剣置いてきた話に、寝ぼけて相棒を母ちゃんって呼んじまった話……これも、この話も……!」
「どうしたのだ?」

 どうしたもこうしたも!

「全部覚えてる……」
「は?」
「実話なんだよこれ! こきおろすためにあることないこと書いてるんじゃなくて! まるで傍で見てきたみたいに全部実話っ……誰だ、これの著者!?」

 なんか顔熱いし何だよもう!
 必死になって本を調べるも、どうやらこの本は著者不明らしくどこにもそれらしき名前は記されていない。

「ずっと傍で見てきたならファイ……貴様の相棒の戦士だったのではないか?」
「あいつは本なんて遺してないしそんな本があったら誰にも見せずに俺が墓まで持っていくわ!」

 旅の後で執筆したならまだしも、あいつは魔王城で……それを思い出したらしく、マオルーグも口を噤んだ。

「……『私が見てきたのは、勇者という男のほんの一部である。その旅路を最後まで共にすることはできなかったが……』どうやらこの人物は一時的に貴様の旅に同行したようだな」
「一時的に……あっ!」

 言われて思い出した……いたわそんなヤツ。

「旅の聖職者だって男が、行き先が同じだからってしばらくの間一緒に……」
「ほぼ確定では?」
「ぐあーアイツ俺達と別れた後こんな本書いてたのかよ!」

 まさか生まれ変わった先の遠い未来で知ることになるとは思わなかった……そしてできればそのまま知らずに済ませたかった。

 ていうか、マージェス王子はこれ読んだんだよな……は、恥ずかしい……
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