スイーツ・リボン

「あのスカルナイトが菓子づくり、か……ふふ」

 スカルグと別れた我は、しばらく一人で商店を見て回っていた。
 売り場そのものも色とりどりに愛らしく飾りつけられており、気づけば周りには楽しそうに買い物を選ぶ女子が増えていて、長身の我は悪目立ちしていないだろうかと不安になる。

(リンネでは女が男に菓子を贈り、愛を告げる……)

 女が、男に、愛……

 い、いや、何も考えてはおらぬぞ!
 珊瑚色の髪の小さな少女など探してはおらぬからな!

 一瞬よぎった何かを振り払うべく頭を振ると、我同様この女子だらけの空間で、文字通り頭ひとつ飛び出ているものを見つけた。
 見覚えのある紅蓮の髪、心なしか眩しく輝いているような気配……ああ、もしかしなくても。

「やあ、そこにいるのはマオルーグだね!」

 腹筋をしっかり使っていそうな張りのある声で我を呼ぶでない!
 隣国のラグード王子といえばリンネでも黄色い声援を浴びる、女子の注目の的。
 そんな奴に遠くから声をかけられた我の周りの女子が一瞬固まり、そして一斉にこちらを見上げてきた。

「……ラグード王子」
「おや、今日は一緒じゃないんだね」
「ですから、ゆ……姫とはいつも一緒という訳では……」

 ざわ、と周囲からざわめきが起こる。
 もしや……我まで注目されている……?

「ラグード王子と、ユーシア姫の護衛のマオルーグ様よね」
「親しげだけどどういったご関係かしら……」
「いい男が二人、何も起きないはずがなく……なんて?」

 おい貴様ら、聴こえているぞ!?
 何も起きないに決まっているだろうが!

「……あの、王子……場所を変えませんか。ここでは我々のような男は目立ちすぎます」
「そうだね。お嬢さん達の買い物の邪魔をしてしまう」

 行こう、と手を引かれた瞬間、黄色い歓声があがり……いや待て、どうしてそこで?
 というか貴様、見た目より遥かに馬鹿力だな!?

 とりあえず店の外に退散した我とラグード王子は、ひと息ついて壁を背にした。

「……リオナットでは男性が女性に贈り物をすると聞きましたが、その買い物でしょうか?」
「ああ、そうだよ。この店ではコーティングに使うチョコレートをね」
「コーティング?」

 ということは果物か何かを別の店で調達するつもりなのだろうか?
 その疑問は王子が取り出したモノによって解消……というより、粉砕されることとなった。

「ユーシア姫といったらチータラ! だからこのチータラをチョコでコーティングしてチータラチョコを作るよ!」
「!?」

 眩しい、あまりにも眩しすぎる笑顔でそう言い放つラグード王子。

 いやそれ別々にした方が良いのでは?

 とりあえずチータラ贈っておけばいいと思っておらぬか?

 他にもさまざまな言葉が胸中に浮かび喉から飛び出しそうになるが、全て呑み込む。

「……そう、ですか」

 我は静かに、この場にはいない勇者に内心で手を合わせた。

……ちなみに後に食した勇者いわく、チータラチョコは「新境地」とのことらしい。
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