ふしぎなくすり騒動記
ふたたび、中庭。
ちょこんと座る小さな背中を見つけた俺は、子供の頃のマオルーグが感情のままに適当な場所に繰り出してしまうほど無鉄砲じゃなくて良かった、と胸を撫でおろした。
「ここにいたか。ファイにはよく言っておいたから……あいつが怒るようなことを言ったお前も、お互い様ではあるけどな」
「むう……」
そこは自分もわかっているのだろうか、マオルーグからの反論はなかった。
むすりと口を尖らせた不機嫌顔は、まだ受け入れてはいないみたいだが。
「……我は魔王だ」
「うん、だから?」
「我は負けてはいかんのだ! ましてあんな小者などにっ!」
マオルーグが叫んだ瞬間、俺の中に眠っていた記憶が呼び覚まされた。
「負けてはいけない、かあ……」
そうか……“魔王”だってそうだったんだよな。
俺はふっと笑うと、マオルーグを背中から抱き締める。
ああ、ちっちゃい子ってあったけえなあ。
「なっ、ななな!?」
「……もういいんだよ。今はとっても幸せな時代なんだから」
今はもう“勇者”も“魔王”も必要ない。
お互いに傷つけあうことも、ましてや命を奪うこともない。
「だが我は魔王でっ」
「マオルーグは、父上母上のことは好きか? 毎日楽しいか?」
「む……」
「今のお前は“マオルーグ”だ。お前がもしまた“魔王”として暴れたら、平和な時代は終わる。当たり前のように幸せな時間も、大切な人も、明日どうなるかわからなくなるんだぞ?」
「うう……」
人間の生を知ったお前に、それができるか?
魔王の記憶と幼子の思考が混在した少年は、ごにょごにょと口ごもる。
「……できぬ。ちちうえとははうえには大切に育てていただいた恩がある」
子供の頃から義理堅かったんだな、コイツ。
俺はマオルーグの頭をぽんぽんと撫でると、こちらを向かせて笑って見せた。
「いい子だな」
「っ、わ、我は魔王だ! いい子とか言うな!」
耳まで真っ赤になったちびっこに、可愛いもんまなあと微笑ましくなっていたのも束の間。
めいっぱい息を吸い込んだちびルーグは、ふんすと鼻から息を出して、
「……フン! だが魔王に意見するとは気に入ったぞ!」
「へ?」
「我が大きくなったアカツキにはキサマをヨメにしてやる! ありがたく思え!」
…………はい?
「ちょっ、お前、何言って……」
お、おこちゃまは積極的ですこと!?
動揺する俺、してやったりで得意げなちびルーグ……しかし、幸か不幸かここで異変が起きた。
「む、なんだ?」
「うわっ!」
突然光に包まれたちびルーグの体が、いきなり縦に伸び……そして、光がおさまった時には、元のマオルーグに戻ったのだ。
つまりは魔法薬の効果が切れた、わけなんだが……
「……」
「…………」
見つめあうふたり。
しばし、止まる時。
「よ、よう、マオ」
「これは……どういうことなのだ……?」
気まずい……ひじょーに気まずい。
お互いに固まっていたその時、誰かが凄まじい勢いでこちらに向かって駆けてきた。
「できましたっ! 小さな魔王様に相応しい衣装がっ!」
「「!?」」
息を切らしながらやって来たのは、全ての元凶マージェス王子だった。
彼の手には漆黒に紅い裏地のマントがはためいており、
(丸投げして逃げたんじゃなくて、それ作るためにいなくなったのかよ!?)
なんて言える訳がない俺は、ポカンとするマオルーグに事情を説明するのだった。
ちょこんと座る小さな背中を見つけた俺は、子供の頃のマオルーグが感情のままに適当な場所に繰り出してしまうほど無鉄砲じゃなくて良かった、と胸を撫でおろした。
「ここにいたか。ファイにはよく言っておいたから……あいつが怒るようなことを言ったお前も、お互い様ではあるけどな」
「むう……」
そこは自分もわかっているのだろうか、マオルーグからの反論はなかった。
むすりと口を尖らせた不機嫌顔は、まだ受け入れてはいないみたいだが。
「……我は魔王だ」
「うん、だから?」
「我は負けてはいかんのだ! ましてあんな小者などにっ!」
マオルーグが叫んだ瞬間、俺の中に眠っていた記憶が呼び覚まされた。
「負けてはいけない、かあ……」
そうか……“魔王”だってそうだったんだよな。
俺はふっと笑うと、マオルーグを背中から抱き締める。
ああ、ちっちゃい子ってあったけえなあ。
「なっ、ななな!?」
「……もういいんだよ。今はとっても幸せな時代なんだから」
今はもう“勇者”も“魔王”も必要ない。
お互いに傷つけあうことも、ましてや命を奪うこともない。
「だが我は魔王でっ」
「マオルーグは、父上母上のことは好きか? 毎日楽しいか?」
「む……」
「今のお前は“マオルーグ”だ。お前がもしまた“魔王”として暴れたら、平和な時代は終わる。当たり前のように幸せな時間も、大切な人も、明日どうなるかわからなくなるんだぞ?」
「うう……」
人間の生を知ったお前に、それができるか?
魔王の記憶と幼子の思考が混在した少年は、ごにょごにょと口ごもる。
「……できぬ。ちちうえとははうえには大切に育てていただいた恩がある」
子供の頃から義理堅かったんだな、コイツ。
俺はマオルーグの頭をぽんぽんと撫でると、こちらを向かせて笑って見せた。
「いい子だな」
「っ、わ、我は魔王だ! いい子とか言うな!」
耳まで真っ赤になったちびっこに、可愛いもんまなあと微笑ましくなっていたのも束の間。
めいっぱい息を吸い込んだちびルーグは、ふんすと鼻から息を出して、
「……フン! だが魔王に意見するとは気に入ったぞ!」
「へ?」
「我が大きくなったアカツキにはキサマをヨメにしてやる! ありがたく思え!」
…………はい?
「ちょっ、お前、何言って……」
お、おこちゃまは積極的ですこと!?
動揺する俺、してやったりで得意げなちびルーグ……しかし、幸か不幸かここで異変が起きた。
「む、なんだ?」
「うわっ!」
突然光に包まれたちびルーグの体が、いきなり縦に伸び……そして、光がおさまった時には、元のマオルーグに戻ったのだ。
つまりは魔法薬の効果が切れた、わけなんだが……
「……」
「…………」
見つめあうふたり。
しばし、止まる時。
「よ、よう、マオ」
「これは……どういうことなのだ……?」
気まずい……ひじょーに気まずい。
お互いに固まっていたその時、誰かが凄まじい勢いでこちらに向かって駆けてきた。
「できましたっ! 小さな魔王様に相応しい衣装がっ!」
「「!?」」
息を切らしながらやって来たのは、全ての元凶マージェス王子だった。
彼の手には漆黒に紅い裏地のマントがはためいており、
(丸投げして逃げたんじゃなくて、それ作るためにいなくなったのかよ!?)
なんて言える訳がない俺は、ポカンとするマオルーグに事情を説明するのだった。