“勇者”が生まれた日
祭で賑わう街は、なんだかキラキラしていた。
俺はまだ前世の記憶も戻っていないガキの頃に一度見てから勇者まみれの光景に本能的な拒否反応起こして以来、毎年どうにかして外出を拒んできたんだけど……こんな綺麗だったっけ?
あと、昔見た時より勇者勇者してない……気がする。
雪に見立てた綿を乗せたツリーには勇者人形や聖剣以外にも星やプレゼントを象った飾り、さっきラグード王子が言っていた聖獣や赤服の御使いの人形が飾られている。
時折聴こえる音楽隊の軽快な演奏と鈴の音が、なんとも気分を盛り上げてくれる。
「すごいでしょう? 飾りつけは毎年城下町の人々が張り切ってやるから、特に気合いが入っているんですよ」
「ほう、見事なものだな。まるで……」
歓迎されているような気分だ。
マオルーグの言葉に、俺も内心で頷いた。
きらびやかな街中は歩くだけで心が弾むようで、訪れる者全てに祝福が降り注ぐような、そんな心地だ。
「……実は、昔勇者様の人形ばかり飾っていたら姫様に怖がられてしまった事を気にして、皆あれこれ工夫を凝らしたんです。今年こそ姫様に喜んでいただけるように、と」
「は!? 怖がってねーし! そりゃあドン引きしたけど!」
スカルグの説明に、後ろでマオルーグが吹き出すのが聴こえた。
おいそこ、笑うんじゃねえ!
「なるほど、ユーシア姫は勇者が……こ、怖くていらっしゃるのですね……」
「うるせえブッ飛ばすぞ」
わざわざ敬語にしやがって、ムカつくやつ!
「姫様、お腹が空いているのでしたらこちらをどうぞ」
「…………」
スカルグは俺の不機嫌の理由を空腹と思い込んでいるようで、悪気のない優しいまなざしで小さな袋を渡してきた。
こっちは天然だから怒りづれぇ……
「聖剣ビスケット、か……いいにおいだな」
袋を開けるとふわっとバターやミルクの香りが鼻をくすぐり、十字型……正確には剣の形をしたビスケットが現れた。
「でしょう? ファイと一緒に作ってみたので、よろしければ……」
「えっ、お前が?」
「ええ。姫様に少しでも聖剣祭を好きになっていただきたくて」
作ったのはファイで私はほとんどお手伝いみたいなものでしたが、と照れながらスカルグは微笑む。
「スカルグ、お前……」
「ほう、美味そうだな」
ふいに背後に気配が近づいたかと思えば、マオルーグがビスケットの袋を覗き込んだ。
そしてニヤニヤとした笑みを浮かべ、
「この騎士一辺倒な男が健気にもわざわざ貴様のために慣れない菓子づくりなどしたのだ。よほどではないか?」
なんて、ここぞとばかりに囁いてきた。
「わかった、わかったよ。んじゃありがたく、いただきます!」
俺はビスケットを自分と、あとさっきからうるさいマオルーグの口にも放り込んだ。
やや固めの食感を楽しんでいると、ほの甘い、優しくて素朴な味が口の中にひろがる……うん、美味しい。
「……スカルグ、貴様菓子づくりを趣味にしたらどうだ?」
「え、作ったのはほとんどファイで……」
「んじゃ今度はスカルグが作ったのも食いてえな。な、いいだろ?」
嫌じゃなかったらだけど、と付け足すとスカルグはちぎれそうな勢いで首を左右に振った。
凝り性のスカルグがその後菓子づくりの腕をメキメキと上げていくんだが、それはまた別のお話。
俺はまだ前世の記憶も戻っていないガキの頃に一度見てから勇者まみれの光景に本能的な拒否反応起こして以来、毎年どうにかして外出を拒んできたんだけど……こんな綺麗だったっけ?
あと、昔見た時より勇者勇者してない……気がする。
雪に見立てた綿を乗せたツリーには勇者人形や聖剣以外にも星やプレゼントを象った飾り、さっきラグード王子が言っていた聖獣や赤服の御使いの人形が飾られている。
時折聴こえる音楽隊の軽快な演奏と鈴の音が、なんとも気分を盛り上げてくれる。
「すごいでしょう? 飾りつけは毎年城下町の人々が張り切ってやるから、特に気合いが入っているんですよ」
「ほう、見事なものだな。まるで……」
歓迎されているような気分だ。
マオルーグの言葉に、俺も内心で頷いた。
きらびやかな街中は歩くだけで心が弾むようで、訪れる者全てに祝福が降り注ぐような、そんな心地だ。
「……実は、昔勇者様の人形ばかり飾っていたら姫様に怖がられてしまった事を気にして、皆あれこれ工夫を凝らしたんです。今年こそ姫様に喜んでいただけるように、と」
「は!? 怖がってねーし! そりゃあドン引きしたけど!」
スカルグの説明に、後ろでマオルーグが吹き出すのが聴こえた。
おいそこ、笑うんじゃねえ!
「なるほど、ユーシア姫は勇者が……こ、怖くていらっしゃるのですね……」
「うるせえブッ飛ばすぞ」
わざわざ敬語にしやがって、ムカつくやつ!
「姫様、お腹が空いているのでしたらこちらをどうぞ」
「…………」
スカルグは俺の不機嫌の理由を空腹と思い込んでいるようで、悪気のない優しいまなざしで小さな袋を渡してきた。
こっちは天然だから怒りづれぇ……
「聖剣ビスケット、か……いいにおいだな」
袋を開けるとふわっとバターやミルクの香りが鼻をくすぐり、十字型……正確には剣の形をしたビスケットが現れた。
「でしょう? ファイと一緒に作ってみたので、よろしければ……」
「えっ、お前が?」
「ええ。姫様に少しでも聖剣祭を好きになっていただきたくて」
作ったのはファイで私はほとんどお手伝いみたいなものでしたが、と照れながらスカルグは微笑む。
「スカルグ、お前……」
「ほう、美味そうだな」
ふいに背後に気配が近づいたかと思えば、マオルーグがビスケットの袋を覗き込んだ。
そしてニヤニヤとした笑みを浮かべ、
「この騎士一辺倒な男が健気にもわざわざ貴様のために慣れない菓子づくりなどしたのだ。よほどではないか?」
なんて、ここぞとばかりに囁いてきた。
「わかった、わかったよ。んじゃありがたく、いただきます!」
俺はビスケットを自分と、あとさっきからうるさいマオルーグの口にも放り込んだ。
やや固めの食感を楽しんでいると、ほの甘い、優しくて素朴な味が口の中にひろがる……うん、美味しい。
「……スカルグ、貴様菓子づくりを趣味にしたらどうだ?」
「え、作ったのはほとんどファイで……」
「んじゃ今度はスカルグが作ったのも食いてえな。な、いいだろ?」
嫌じゃなかったらだけど、と付け足すとスカルグはちぎれそうな勢いで首を左右に振った。
凝り性のスカルグがその後菓子づくりの腕をメキメキと上げていくんだが、それはまた別のお話。