お忍び祭

 夕方まで城下町をぐるりと回って、ラグード王子とも別れて。
 帰ってきた俺が見たものは、聖職者の格好をしたファイと妙にげっそりしたマオルーグ……恐らく、マージェス王子からどうにか逃げられたのだろう。
 聖職者と吸血鬼って、すげえ組み合わせだなあ……

「ただいまー」
「ユーシア様、もしやお一人で町を……?」
「ああいや、向こうでラグード王子と会ったから一緒に回った……それよりも、」

 お小言が飛んでくる前に話題転換、というか普通に気になってるんだけど。

「……マオ、大丈夫か?」
「うるさい。我を見捨てて逃げた貴様には心配する資格などない」
「わ、悪かったって」

 無表情に淡々とした口調……やべぇこれ完全に拗ねてるわ。

「何があったか知りませんけど、護衛を置いて町をうろつくなんて危ないですよユーシア様。まして、祭ともなればいつもと状況は違いますし」
「あー、わかったわかった。そっちも悪かったよ。せめてお前誘えば良かったな」

 城下町のお祭デートにな、なんて言ってやれば、面白いくらいに真っ赤になるファイ。

「そっ……それは、その……護衛としては、そうですけど……」
「おい貴様、小娘にいいように翻弄されるな…………中身はともかくとして」

 おいマオ、最後の方ボソッと言ったの聴こえてるからな。

「……それで、お忍び祭はどうでした?」
「楽しかったぞ。いろんな仮装の人がいて、屋台もたくさんあって、みんなも楽しそうだった。来年もやりたいなー」
「そうですか。好評そうなら良かったですね」

 俺はそのまま、ラグード王子やスカルグのことも話した。
 マージェス王子のことは……まあ、たぶんマオから聞いてるだろうし。

「あ、好評といえばお前が作ってくれたお菓子も好評だったぞ。ラグード王子がまた食べたいって」
「え、オレの手作りなんかを? 王子ならもっといいもの食べてそうなのに……」
「素直に喜んどけよ。俺もお前の作るスイーツは好きだし」
「あ……ありがとうございます」

 実際ほんとに美味いんだけど、やっぱ相手が見える手作りって嬉しいものだからな。

「来年も作りますね、たくさん」
「そしたら今度は一緒に町を回ろうな。お前も、マオも一緒に」
「はい」

 そしたらお小言も飛んでこないしな……なんて言ったら台無しだろうから、そこは黙っておく。

「それはそうと、ユーシア様……」
「へ?」
「屋台で何をお食べになりました?」

 あれ、うまくまとめられたと思ったのに……なんか顔が怖い?

「えーと、炙りチータラ……」
「だけではないでしょう」
「……イカ焼き、タコ焼き、わたあめ、りんご飴、焼きそば、チョコバナナ、人形カステラ……」
「食べすぎです! 夕食が入らなくなるでしょう!」
「えー!?」

 ていうか、なんでバレた!?
 俺の疑問には深い深い溜息を吐いたマオルーグが答えてくれた。

「……貴様、チータラとイカの匂いを身に纏い過ぎだ」
「げっ、マジ?」

 すんすんと腕の辺りを嗅げば、言われてみれば……?
 いやはや、自分の匂いなんてわかんねーもんだなあ。

「買い食いし過ぎて魚臭い姫など聞いたことがないわ! とっとと湯で流してこい!」
「は、はーい!」

 わーん、おとーさんとおかーさんに怒られたー!
 というふざけたアレはそっと心の中にしまっておくことにして、俺は風呂へ向かった。
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