ラグードを連れたまましばらく歩いていると、今度はひょろりとした包帯ぐるぐる巻き人間……ミイラ男の仮装をしたスカルグと出会う。

「姫様」
「スカルグ……お前の仮装もすごいなあ」
「は、はは……これには少々ワケがありまして……」

　普段は服で誤魔化してるけど、スカルグは本当に細い。
　それが包帯を巻きつけるだけの今の格好では体のラインが際立ってしまって、なんというか……

「なんだか……セクシーだね、その格好」
「ああうん、わかる。露出はむしろないんだけどな」
「セ……っ!?」

　露出度でいったら前世の骸骨騎士には敵わない、ってありゃ露出の次元が違うか。

「あの、実は祭のことをよく存じ上げていなくて……仮装もせず、お菓子も持っていなかったのですが……」
「それは大変。渡すお菓子がなきゃイタズラされちゃうよ？」
「……その結果が、この格好なんです」

　がっくりと肩を落とすスカルグが言うには、つい先刻仮装をしたマージェス王子と遭遇したらしい。
　そこで例のやりとりをして、お菓子がないならイタズラを、と取り出した包帯でこの格好にされたとか。

……どうしてたまたま準備良く包帯を持ち歩いていたのか、ねぇ？

「こりゃ、スカルグが菓子持ってなさそうなの見越して、最初からイタズラするつもりで近づいたな」
「マージェス王子はそういう所あるからね……」

　そして立場的に逆らえないスカルグはおとなしく包帯ぐるぐる巻きにされた、と。
　一応ふたりとも前世の記憶は戻ってないみたいだけど、マオルーグによれば元は仲が悪かったみたいだからなあ……
　そういうのが何かしら残っているのか、マージェス王子はよくスカルグにちょっかいを出す。

「で、ですがその後でちゃんと祭について教えていただきましたし……」
「やることやってからじゃねーか」
「充分遊んで満足したからなんじゃないかな？」
「う……」

　あー、よしよし、お菓子あげるから。

「ほら、せっかく仮装もしたんだし、祭を楽しめよ。マージェス王子だってそのつもりでわざわざお前に仮装させたのかもだし」
「そうそう。せっかくユーシア姫が考案してくれたお祭だよ。楽しまなきゃ損さ！」
「そ、そうですね……ありがとうございます。それでは警備に戻りますね」

　微笑んで会釈をするスカルグはよく見れば帯剣していて、

「ってここでも仕事かよ！」
「誰かがやらねばなりませんからね。こういう時こそ気の緩みが危険なのですよ」
「あー……ならせめてちょっとの間だけでも交代してもらえよ」

　いいんです、と細める勿忘草色の目は穏やかだ。

「警備だって嫌々やっている訳ではありませんよ。このお祭には楽しげな笑顔が溢れています。貴方が生み出した、笑顔が」
「スカルグ……」
「ですから私は幸せなのです。この笑顔を守る剣となれることが……それに、これでもちゃんと楽しんでいますよ」

　ぐっっっっ！

　くそう、穏やかな笑顔が眩しいぜ……

「それでは、また」

　止める間もなく行ってしまったスカルグに、伸ばした手の行き場がなくなる。

「なんというか、真面目な人なんだね」
「あー、少しは休んだり遊んだり息抜きしてほしいんだけど……」
「でも、今の言葉に嘘はないんだろうね。きっとあの人はあの人なりに、祭を楽しんでいるんだよ」

　そうだけど、そうなんだけどさあ……

「息抜きはまた別の機会に、たっぷりさせてあげればいいよ」
「……させてやれればいいけどな」

　アイツが他に楽しそうにするの、俺の剣の稽古に付き合う時ぐらいしか思いつかねえ。
　前世からちっとも変わらない剣バカに、俺は頭を悩ませるのだった。