お忍び祭
そして『お忍び祭』当日。
「勇者よ、我が前に供物を示せ……」
這うようなおどろおどろしい低音に振り向くと、そこには魔王……もとい、赤い裏地の黒マントを羽織り、吸血鬼風の仮装をしたマオルーグがいた。
「ノリノリだなマオたん……そのマントどうした?」
「ぐっ、いいから菓子を寄越せ! ないなら相応の……」
「はいはい、ファイがいっぱい持たせてくれてるよ」
俺は左手に提げたバスケットから小分けにされたマドレーヌの袋を取り出し、吸血鬼に渡した。
ちなみにマドレーヌはファイの手作りなんだが、アイツの作るお菓子はけっこーうまいのだ。
「ぬ」
「なんだその顔は。そういうイベントだろ、これ」
マドレーヌを受け取ったマオルーグがなんだか拍子抜けしたような顔でそれをじっと見つめる。
「……まさか、イタズラ目的で俺に近づいた!? んまぁマオたんったらやらしー」
「ごっ、誤解を招く言い方をするな! ただ少しあっさりし過ぎて味気ないと思っただけだ!」
うんわかってるけど、打てば響くって面白いなあ。
「じゃ、俺にもなんかちょーだい?」
「む、そういえば貴様も仮装をしているのか……その格好は、妖精か?」
「おう。マージェス王子に妖精のこと調べるの手伝ってもらってな」
髪には羽根飾り、背中には透明な羽を生やし、花びらのような形をしたやや短いスカートはいつもより動きやすくていい感じだ。
妖精にもいくつかタイプがいるみたいだが、俺の格好は本当なら小さな、手乗りサイズの妖精らしい。
「そのマージェス王子も、祭のことを聞けば面白がって参加しそうなものだな」
「ええ。こんな興味深いお祭を知ってしまっては黙っていられません」
と、タイミング良く現れたのは件のマージェス王子。
その装いはとんがり帽子にマントに杖……うん、どっからどー見ても魔法使いだ。
「という訳で、甘いものひとつくださいな」
「ええ、どうぞ。わたくしにもいただけるかしら?」
すぐさま姫モードに切り替えてお菓子の交換をするゆるふわ空間に渋い顔をするマオ……ええい、言いたいことはわかるけどそんな顔すんじゃねえ!
「可愛らしい妖精さんですね」
「うふふ、ありがとうございます。マオルーグったら全然褒めてくださいませんのよ」
「んなっ……!?」
ほら、お前もゆるふわお花畑に巻き込んでやるよ。
そんな意図で話を振ってみたら、思わぬ方向に転がった。
「おやおや、きっと照れているのでしょう。ねぇ、素敵な吸血鬼さ……」
マオルーグの姿を改めて目にしたマージェス王子が一瞬、硬直する。
「……魔王、さま」
「「!」」
ま、まさか、前世の記憶を取り戻した……?
だとしたらマージェス王子は魔王の配下のダークマージ……策略家で、魔王を崇拝していて、勇者を憎む……たぶん、一番記憶を取り戻したらまずい奴。
まずい、と俺たちが思わず顔を見合わせるが、
「気高くも麗しいその御姿、勇者物語の魔王様みたいですね!」
「あっ、ああ、物語の……か」
ホッとして気が抜けたマオルーグの右手を、マージェス王子の両手ががっちりと掴んだ。
普段は穏やかおっとりなのに、鼻息荒く迫る王子の目が明らかにヤバい。
「マオルーグさん! やはり貴方は私の理想の魔王様……っと、私としたことがヨダレが」
「ま、待っ……お待ちください王子! これは魔王ではなく吸血鬼のっ……!」
うお、話には聞いてたけどスイッチ入ったマージェス王子怖ぇ……
「そ、それでは、わたくしは城下町を見て回りますので失礼!」
「勇者ぁー! 裏切るのか貴様ぁ!」
勇者と魔王で裏切るも何も。
魔王様、達者でお暮らしあそばせ!
「勇者よ、我が前に供物を示せ……」
這うようなおどろおどろしい低音に振り向くと、そこには魔王……もとい、赤い裏地の黒マントを羽織り、吸血鬼風の仮装をしたマオルーグがいた。
「ノリノリだなマオたん……そのマントどうした?」
「ぐっ、いいから菓子を寄越せ! ないなら相応の……」
「はいはい、ファイがいっぱい持たせてくれてるよ」
俺は左手に提げたバスケットから小分けにされたマドレーヌの袋を取り出し、吸血鬼に渡した。
ちなみにマドレーヌはファイの手作りなんだが、アイツの作るお菓子はけっこーうまいのだ。
「ぬ」
「なんだその顔は。そういうイベントだろ、これ」
マドレーヌを受け取ったマオルーグがなんだか拍子抜けしたような顔でそれをじっと見つめる。
「……まさか、イタズラ目的で俺に近づいた!? んまぁマオたんったらやらしー」
「ごっ、誤解を招く言い方をするな! ただ少しあっさりし過ぎて味気ないと思っただけだ!」
うんわかってるけど、打てば響くって面白いなあ。
「じゃ、俺にもなんかちょーだい?」
「む、そういえば貴様も仮装をしているのか……その格好は、妖精か?」
「おう。マージェス王子に妖精のこと調べるの手伝ってもらってな」
髪には羽根飾り、背中には透明な羽を生やし、花びらのような形をしたやや短いスカートはいつもより動きやすくていい感じだ。
妖精にもいくつかタイプがいるみたいだが、俺の格好は本当なら小さな、手乗りサイズの妖精らしい。
「そのマージェス王子も、祭のことを聞けば面白がって参加しそうなものだな」
「ええ。こんな興味深いお祭を知ってしまっては黙っていられません」
と、タイミング良く現れたのは件のマージェス王子。
その装いはとんがり帽子にマントに杖……うん、どっからどー見ても魔法使いだ。
「という訳で、甘いものひとつくださいな」
「ええ、どうぞ。わたくしにもいただけるかしら?」
すぐさま姫モードに切り替えてお菓子の交換をするゆるふわ空間に渋い顔をするマオ……ええい、言いたいことはわかるけどそんな顔すんじゃねえ!
「可愛らしい妖精さんですね」
「うふふ、ありがとうございます。マオルーグったら全然褒めてくださいませんのよ」
「んなっ……!?」
ほら、お前もゆるふわお花畑に巻き込んでやるよ。
そんな意図で話を振ってみたら、思わぬ方向に転がった。
「おやおや、きっと照れているのでしょう。ねぇ、素敵な吸血鬼さ……」
マオルーグの姿を改めて目にしたマージェス王子が一瞬、硬直する。
「……魔王、さま」
「「!」」
ま、まさか、前世の記憶を取り戻した……?
だとしたらマージェス王子は魔王の配下のダークマージ……策略家で、魔王を崇拝していて、勇者を憎む……たぶん、一番記憶を取り戻したらまずい奴。
まずい、と俺たちが思わず顔を見合わせるが、
「気高くも麗しいその御姿、勇者物語の魔王様みたいですね!」
「あっ、ああ、物語の……か」
ホッとして気が抜けたマオルーグの右手を、マージェス王子の両手ががっちりと掴んだ。
普段は穏やかおっとりなのに、鼻息荒く迫る王子の目が明らかにヤバい。
「マオルーグさん! やはり貴方は私の理想の魔王様……っと、私としたことがヨダレが」
「ま、待っ……お待ちください王子! これは魔王ではなく吸血鬼のっ……!」
うお、話には聞いてたけどスイッチ入ったマージェス王子怖ぇ……
「そ、それでは、わたくしは城下町を見て回りますので失礼!」
「勇者ぁー! 裏切るのか貴様ぁ!」
勇者と魔王で裏切るも何も。
魔王様、達者でお暮らしあそばせ!