城下町に幽霊は踊る

「ふん、くだらぬ」

 俺から事の経緯を聞いたマオルーグは、呆れた顔で鼻を鳴らした。

「だいたい幽霊など信じているのか?」
「ていうか、不審者だった場合が普通に問題だと思うけど」
「ぬ……それはそうだがまさか貴様」

 はい、そのまさか。
 ここでマオがちょっと嫌そうな顔をしているのはオバケが怖いとかじゃない。
 どうせ「また面倒に首を突っ込む気だな」って事だろうが、そもそも、

「面倒に首を突っ込むのが勇者だからな」
「突っ込むな。今は姫だろう」

 まあそう言われちまえばその通りなんだけど、ここでじっとしていられないのが勇者でして。
 ていうか、面倒事に首突っ込むぐらいじゃないと世界なんて救えないんだよ。

「さっきも言ったけど、そもそも不審者だったらマズいんだよ。城下町の平和が脅かされてるってことだからな」
「王族としては見過ごせんか」
「そゆこと。このままじゃ安心して眠れないだろ?」

 はあ、と特大の溜息がマオルーグから聞こえた。
 嫌というほど心情を伝えてくるそれは、恐らくわざと聞かせているのだろうけど。

「……ならば我が調査する。念のためファイも同行させれば文句はなかろう」
「あー、ファイだけはやめてやってくれ……あいつマジでオバケとかそういうのダメだから」
「ゆ、勇者の仲間がか? 数多の魔物と戦って苦難の道程を乗り越えてきたのだろう? いや何よりも、我の配下に死霊系魔物が多くいたはずだが!?」

 それこそスカルナイト……スカルグの前世の骸骨騎士とかいただろうとマオルーグが詰め寄る。
 そうね、ありゃホラー耐性ないヤツは卒倒するわな。 

「大半はアイツが野太い悲鳴あげる中で俺の聖魔法で対処してた。スカルナイトは……うん、最初すっげえビビってたな。さすがに何回目かで慣れたけど」

 見た目は怖いけど妙に人間臭いからか、スカルナイトにだけはアイツも最終的に慣れた。
 それ以外はパニックになったあいつを宥めながら、俺が冷静に対処してきたけど。

「貴様……苦労してきたのだな」
「誰にだって苦手なもののひとつやふたつあるし、お互い様だからなー」
「む、貴様の苦手なものだと?」

 そこで少し興味をもったような、楽しそうな声音に変わったマオルーグを俺は敢えてスルーする。

「という訳だからあいつは勘弁してやってくれ。そして俺を連れていけ」
「ほざけ。子供は寝る時間だ」
「都合のいい時だけ子供扱いするなよ」

 俺おっさんなんだけど、といつものように言うと、

「寝る子は育つというだろう。肉体は少女なのだから、若いうちから夜ふかししていると大きくなれぬぞ」
「ぐっ、ド正論だと……!?」

 平均よりやや小柄な俺に、魔王はまさかの正論で返してきた。
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