城下町に幽霊は踊る
「ユーシア姫、こんな噂を御存知ですか?」
事のきっかけは、カノド国の王子マージェスのそんな言葉からだった。
城の大庭園をファイと散歩していた俺は、そこでのんびりと読書を楽しんでいたマージェス王子に挨拶して、何気なく世間話をしていたのだが。
「噂?」
それはお姫様に転生して以来、すっかり刺激的な冒険と縁遠くなってしまった元勇者の俺の好奇心を呼び覚ますには、充分な響きをもっていた。
「また余計なことに首を突っ込む……」
おいそこ、小声にしたって聴こえてるぞファイ。
まあ確かにラグード王子の話を盗み聞きしたことからちょっとした冒険に発展した先日の事件も、まだ記憶に新しい。
俺はファイをひと睨みすると、少しばかりわざとらしく咳払いをした。
「……それでマージェス王子、噂って何ですの?」
「ふふ、それはですね……」
幽霊騒ぎですよ。
にっこりとした笑顔はそのままに、マージェスは声のトーンを低くした。
「ゆ、幽霊……?」
「ええ。どうやら近頃城下町に“出る”らしくて」
ごくり、息を飲んだのはファイだった。
あれお前ちょっと顔が青白いような……?
「みんなが寝静まる深夜に町を歩き回るあやしい影がですね……」
「……ただの不審者ではありませんの?」
「そ、そうですよ不審者! そうだ、それなら大丈夫……」
大丈夫じゃない、むしろそっちのが問題だぞファイ。
そういやこいつ、前世からオバケが苦手だったっけ……常識人枠なのに恐怖のあまり判断力を失っちまってる。
「深夜の町中で目撃された白い人影はふらふらとまともでない動きをしていたそうです。気配がまるで感じられなかった、追いかけようとしたらいつの間にか姿を消してしまったとも聞いていますよ」
「よ、酔っぱらい、とか……」
「果たして、ただの酔っぱらいが気配を消しますかねえ?」
くすくすと妙に楽しそうなマージェス王子の様子にはどことなく見覚えがある。
前世で俺にあらゆる嫌がらせを仕掛けてきた、魔王の配下ダークマージだ。
そしてファイはというと、青い顔して固まっている。
「あー……ひとまず、調査してみる必要がありそうですわね。このままでは住民が不安がってしまいます」
何より誰より、すっかり怯えちまったこいつがな。
俺はちらりとファイに目配せをすると、まずはマオルーグにでも話をしてみるか、と溜息を吐いた。
事のきっかけは、カノド国の王子マージェスのそんな言葉からだった。
城の大庭園をファイと散歩していた俺は、そこでのんびりと読書を楽しんでいたマージェス王子に挨拶して、何気なく世間話をしていたのだが。
「噂?」
それはお姫様に転生して以来、すっかり刺激的な冒険と縁遠くなってしまった元勇者の俺の好奇心を呼び覚ますには、充分な響きをもっていた。
「また余計なことに首を突っ込む……」
おいそこ、小声にしたって聴こえてるぞファイ。
まあ確かにラグード王子の話を盗み聞きしたことからちょっとした冒険に発展した先日の事件も、まだ記憶に新しい。
俺はファイをひと睨みすると、少しばかりわざとらしく咳払いをした。
「……それでマージェス王子、噂って何ですの?」
「ふふ、それはですね……」
幽霊騒ぎですよ。
にっこりとした笑顔はそのままに、マージェスは声のトーンを低くした。
「ゆ、幽霊……?」
「ええ。どうやら近頃城下町に“出る”らしくて」
ごくり、息を飲んだのはファイだった。
あれお前ちょっと顔が青白いような……?
「みんなが寝静まる深夜に町を歩き回るあやしい影がですね……」
「……ただの不審者ではありませんの?」
「そ、そうですよ不審者! そうだ、それなら大丈夫……」
大丈夫じゃない、むしろそっちのが問題だぞファイ。
そういやこいつ、前世からオバケが苦手だったっけ……常識人枠なのに恐怖のあまり判断力を失っちまってる。
「深夜の町中で目撃された白い人影はふらふらとまともでない動きをしていたそうです。気配がまるで感じられなかった、追いかけようとしたらいつの間にか姿を消してしまったとも聞いていますよ」
「よ、酔っぱらい、とか……」
「果たして、ただの酔っぱらいが気配を消しますかねえ?」
くすくすと妙に楽しそうなマージェス王子の様子にはどことなく見覚えがある。
前世で俺にあらゆる嫌がらせを仕掛けてきた、魔王の配下ダークマージだ。
そしてファイはというと、青い顔して固まっている。
「あー……ひとまず、調査してみる必要がありそうですわね。このままでは住民が不安がってしまいます」
何より誰より、すっかり怯えちまったこいつがな。
俺はちらりとファイに目配せをすると、まずはマオルーグにでも話をしてみるか、と溜息を吐いた。